第5話 妹様襲来





 両親に黙ってルーフェルに会いに来た妹のサターナ。

 父である魔王が、姉妹が会う事に許可を出さなかったのには理由がある。


 といっても、魔王にではなくその周辺の者達が反対していて、その理由は追放されたルーフェルが逆恨みして、次期魔王のサターナを害すると心配してのことであった。


 もちろん、ルーフェルには可愛い妹に危害を加える気は微塵もない。

 だが、今頃魔王城では大騒ぎになっているだろう。


 そして、その事を一番危惧している人物がいた。

 ―そうサターナの護衛であるレヴィア=へルベットである。


 サターナの勝手な行動等はいえ、彼女には護衛でありながら次期魔王の危険を伴う城からの外出と旅を制止する事が出来なかった罪を負わされる可能性があり、最悪文字通り”首が飛ぶ(物理)”ことになるからだ。


 そのため彼女は、顔を青くしながらルーフェル達に近づくとこのように懇願してきた。


「ルーフェル様にアイシャさん! それにそこの紳士な執事さん! 今のサターナ様の言葉を聞きましたよね!? そうなんです! 今回の事はサターナ様が、私の言うことを聞かず勝手にここまで来たんです! だから、皆さん! 魔王様と王都の偉い人達に私は悪くないと証言してください~~~」


 涙目で必死に訴えるレヴィア。


「ダメだよ、サターナちゃん。レヴィアちゃんに迷惑をかけちゃ~」

「ごめんなさい。お姉さま。ついお姉さまに会いたくて我慢できなくて……」


 ルーフェルに注意され、シュンと落ち込むサターナ。


「謝るのは私じゃなくて、レヴィアちゃんにでしょう?」

「ゴメンナサイデスワ。ワタシガワルカッタデスワ」


 姉に促されると、棒読みで謝罪する妹様。

 だが、その棒読みから分かる通り、反省など微塵もしていない。


“可愛い妹が大好きな姉に会いに来る事に、何の問題があるのですわ? むしろ、当然の権利だと思いますわ~”というのが彼女の本音であるからだ。


 まだ13歳なので、周りに迷惑が掛かることまで考えが及ばないのは、仕方がないといえば仕方がないかもしれない。


「本当に反省しているのかしら?」


 そんな妹様を見て、アイシャはジト目で疑問を口にする。


 すると、そんなアイシャに向かって、ルーフェルに見えないように”べー”っと舌を出して、彼女を挑発するサターナ。そして、頬をピクッと引きつらせるアイシャ。


 サターナは大好きな姉と仲が良いアイシャの事を嫌っており、事ある毎にこうして嫌悪感を示している。


 そこに屋敷からメイドが、デスセバスチャンを呼びにやってので、彼は急いで屋敷に戻って行く。


 公爵の部屋にノックをして入室すると、部屋の主は厳しい表情で椅子に座っており、デスセバスチャンは只事ではない事を察する。


「先程、王都より早馬が来た。国境の監視兵からの連絡で、人間達が大軍を率いて魔王領に侵攻してきているそうだ」


「なんと……」


 その言葉を聞いて、デスセバスチャンは驚愕の表情を浮かべる。


「この侵攻を受けて、魔王様から村人から5日以内に募兵して兵を送るようにと、命令書が届いている。出立は明日の朝とすると各村に伝えてくれ」


「承知しました。早速領地内の各村にそのように触れを出します」


 デスセバスチャンはそう言って、魔王からの命令書を受け取って、部屋から出て行く。


(何か嫌な予感がする…)


 そして、公爵は部屋の窓から外を眺めながら、そう心の中で呟くと老体に鞭を打って自らも出陣することを決意する。


 その夜―


 人間の大軍が侵攻してきていることは、ルーフェルたちにも伝わっており、夕食の雰囲気は重苦しい物となっていた。


 夕食の席には、デスバイン公爵と夫人、ルーフェル姉妹、そしてそれぞれの護衛アイシャとレヴィアも同席していた。


「皆に聞いて欲しい事がある」


 そんな中、公爵は席を立つと、真剣な表情で全員を見渡して話し始めた。


「もう聞き及んでいると思うが、人間達が大軍で我らが魔王領に侵攻を開始した。そこで、私は明日戦える者達を連れて魔王城に向かうつもりだ。ルーフェル達はここに残って、我が領土を守って欲しい」


 そのように提案するデスバイン公爵であったが、その申し出に対してルーフェルは首を横に振る。


「いいえ、お祖父様! 私も行きます!」

「私もお姉さまと一緒にいきますわ~」


 姉のその言葉に続くようにして、妹は自分も同行する事を宣言すした。


「サターナちゃん。気持ちは嬉しいけど、危ないよ~」

「大丈夫ですわ~。私とお姉さまが力を合わせれば怖いものなんてありませんもの」


 そう言いながら、可愛らしくウインクをする妹様。


「だったら、もちろん私も行くわよ!」

「わっ 私も行きます」


 続いて、アイシャとレヴィアも自分達の意思を公爵に伝える。

 だが、意気揚々とするその少女たちに、公爵は諭すように語りかけた。


「オマエたちの気持ちは解るが、君たちはまだ若いし未熟だ。はっきりと言って、足手まといだ。大人しく留守番をしていなさい。それに我らの居ない領地を守るのも、重大な役目である。


「オマエたちの気持ちは解るが、君たちはまだ若いし未熟だ。はっきりと言って、足手まといだ。大人しく留守番をしていなさい。それに我らの居ない領地を守るのも、重大な役目である。わかったね?」


「はい…」


 公爵の言葉に素直に従う四人の少女達。


 翌朝―

 出陣前の鎧を身に纏う公爵に、ルーフェル達は不安そうな顔で声を掛ける。


「お祖父様。ご武運をお祈りしております」

「おじいさま~ ご無事で… ですわ…」


「ああ、安心しなさい。必ず生きて帰ってくるから」


 公爵は孫達の頭を優しく撫でると、夫人に声をかけた。


「では、行ってくる」

「はい。ご武運を」


 夫人は一言だけ言葉を返すと、小さく頭を下げて夫を見送る。

 長年連れ添った夫人は、夫の“戻らない”という覚悟を何となく察していた。

 故に一言だけしか声をかけなかったのだ。


 公爵が魔界馬に乗って、屋敷の門を出ると武装して騎乗したデスセバスチャンが待っていた。


「何をしている?」

「お供させていただきます」


「ならぬ。お前には執事として、ルーフェルをしっかりと支えて欲しい」


「ルーフェル様には、アイシャ殿や我が孫ベルルもおります。それに失礼ながら、私がお使えするのは公爵閣下のみ。どうか、お供させてくだい」


「愚か者め…… 好きにするがよい」

「ははっ」


 こうして、二人の老兵は戦場へと向かって行った。

 二人は老いたとはいえ、歴戦の戦士である。その二人の勘が今回の戦いが厳しい戦いになるだろうと予感させたのだ。そして、自分達の死に場所になることを……





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