第3話 進化する召喚と目標





 ドゥンケルラントに来て15日目―


「アイシャちゃん。鍛錬のおかげで私の【召喚】が進化したよ!」


 朝食後ルーフェルはドヤ顔で、アイシャに告げた。


「あっ そう……」


 だが、おとぼけ姫の思っていたものとは違い、そのツンデレの反応は素っ気なかった。

 なので、姫様はその反応に抗議してくる。


「どうしてそんなに興味なさそうなの~!? もっと、こう~”えっ!? 一体どんな風に進化したツン。教えなさいデレ!”って、興味持ってよ~」


「なんで私の語尾が”ツン”と”デレ”なのよ!? ふざけんじゃないわよ!! この脳天気姫!!」


「だって~ アイシャちゃんが意地悪して、聞いてくれないんだもん~」


 そう言って、頬っぺたを膨らませて拗ねるルーフェル。


「はいはい、解ったわよ。どうせ大したこと無いと思うけど… 進化とはどういう事なのかしら?」


 アイシャは仕方ないといった感じで、話を聞いてあげる事にした。


「それはね~ 実際に見せる方が、早いから家畜小屋に行こう~」


 ルーフェルの提案を受け、彼女とアイシャは屋敷の敷地内にある家畜小屋に向かう。

 すると、そこにはデスセバスチャンに代わり今日はベルルが動物の世話を行っていた。


 そんなベルルに「ありがとうね~」と労いの言葉を掛けた後に、ルーフェルはアイシャとベルル、動物達が見守る中召喚を使用する。


「我が名はルーフェル=デスタニア。求めに応じ我が魔力を糧として、この声に応え我が力となるためにその姿を顕現せよ!」


「動物を召喚する魔法のクセに、相変わらず無駄に長い呪文ね。しかも、”我が”が多いし」


 アイシャは、小言を言いながらも見守る。

 すると、いつものように魔法陣が浮かび上がり、そこから光が溢れ出す。


 そして、そこから――!


「モーーー!!」


 いつものように牛が召喚される。


「何よ! いつもどおりの牛じゃない!! 無駄な時間を使わせて、このおとぼけ姫…… ぶっ飛ばすわよ!?」


 もしかしたら、強そうな魔獣か魔物が! と淡い期待を抱いていただけに、いつもよりツッコミがキツくなってしまう。


「ちっ 違うよ~~。落ち着いて、聞いてよ~」


 アイシャのツッコミにビクつきながら、ルーフェルは涙目で反論する。


「もう、そんな顔しないでよ。言い過ぎたわよ。悪かったわよ。それで、どう変わったか言ってみなさいよ?」


 そんなルーフェルの姿を見たアイシャは、少し言い過ぎたと思って謝罪してから、落ち着いた口調で問いかけた。彼女はツンデレだが優しい子なので、怖がらせてしまったことに、心が痛んだのだ。


 それなら、”最初からキツイことを言うな”と思われるが、性格なので仕方がない。


 アイシャの機嫌が直った事を確認したルーフェルは、”コホン”と咳払いをしてから仕切り直す。


「ジャジャ~ン! 何と! 今まで呼び出せた“牛”“羊”“犬”“猫”の中から、好きな子を召喚できるようになりました~」


 ルーフェルは嬉しそうに、アイシャに説明する。


「流石ルーフェル様です」


 そんな彼女をベルルが、小さな手をパチパチと叩いて賞賛した。


「えへへ~ ありがとうね~」


 ルーフェルは自分の事を褒めてくれたベルルに、満面の笑みで答える。

 そんな彼女を尊敬の眼差しで見るベルルに対して、アイシャの目は冷ややかだった。


「それって… 何の意味があるのよ?」


 その目が訴える意味は、彼女のこの言葉に詰まっていた。


「えっ!?アイシャちゃんは、この能力の凄さがわからないの? ツンデレなのに?」


「解らないことに、ツンデレは関係無いのよ! この能天気ボケボケ姫、ほんとぶっ飛ばすわよ!?」


「ひぃっ! ごめんなさい~」


 アイシャの剣幕にルーフェルは怯えて、涙目になりながら謝る。


「もう一々涙目にならないでよ。悪かったわよ。それで、好きな動物を召喚できる事の何が凄いのよ?」


 そんなルーフェルの姿を見たアイシャは、再び少し言い過ぎたと思って謝罪してから、落ち着いた口調で問いかけた。彼女はツンデレだが優しい子なので、怖がらせてしまったことに、心が痛んだのだ。


 ”だったら、最初からキツく突っ込むな! 学習能力無いのか?”と、思われた方”うるさい! ぶっ飛ばすわよ!?”


「それはね? これからは牛さんだけを呼び出せて、“ルーフェルモーモーパーク”が造れるってことなんだよ~」


 ルーフェルはドヤ顔で、アイシャに答えた。


「”モーモーパーク”って… アンタ……」


 アイシャは呆れ果て、絶句する。

 そして、呆れたまま質問を続けた。


「それは、牧場でも開くつもりなの…?」

「うん、そうだよ~」


 ルーフェルはニコニコしながら、笑顔で肯定した。


「アンタね…… 仮にも元魔王候補が牧場経営って… 何を考えているのよ……」


 アイシャは頭を抱えて溜息を吐いた。


「何って… お金を稼ぐんだよ?」


 だが、今までのボケボケ姫とは違いルーフェルは、真面目な顔と口調で返答する。


「えっ?」


「この国に来てからずっと考えていたんだけど、お祖父様達に迷惑を掛けないためにも、お金を稼がないといけないと思うの。そこで牛さんの牛乳でお金を稼ごうというわけだよ」


 アイシャはルーフェルの真剣な態度に、言葉を失う。

 彼女の言う通りで、自分たちは食費など金銭面で負担をかけている。


 だが、実際のところは姫とその護衛である二人の生活費や諸経費は、国から経費で出ているので、ドゥンケルラントには迷惑はかかっていない。


「それにお金があれば、私の― ううん、の望みを叶える事も出来るしね」


 そのルーフェルの言葉を聞いた瞬間、アイシャの全身に電流が走る!


(私達の望み…… つまり、中央への復帰!!)


 そして、その電流はアイシャに次のような結論を導き出す。


(中央への復帰は、何も武力だけではない… 財力! つまりは、お金をばら撒いて権力を手に入れるのね!! 確かに、その方が武力よりも中央への復権は可能かもしれないわ。何よりも、中央から危険視されることもない!)


 そのような事を考えながら、ルーフェルを見てみるといつものゆるゆる顔も凛々しく見えてしまう。


(冴えているじゃない!! ルーフェル… いえ、我が主ルーフェル=デスタニア様。私は信じていました……        何度もぶん殴りたくなったけど…)


 アイシャはルーフェルの事を見直し、感動していた。


「いい! いいですね! 牧場経営!」

「でしょ? でしょ?」

「はい! 素晴らしいと思います!!」


 ベルルも二人の間で楽しそうに会話をしている。


「それで資金が溜まったら、私達の夢を叶えましょう!」


 アイシャは嬉々として、ルーフェルに話しかける。


「うん! 私達の夢…… “ルーフェルふれあいもふもふ動物ランド”建設を目指して頑張ろう~!」


 そんな彼女にルーフェルは笑顔で答えた。


 説明しよう! “ルーフェルふれあいもふもふ動物ランド”とは、ルーフェルが召喚する可愛い動物達ともふもふ触れ合える名前の通りの施設である。


「ルーフェルふれあいもふもふ動物ランド!!?」


 アイシャは思わず驚きの声を上げた。


「アンタは― 」


 そして、またフザケたことを言い出したボケボケ姫にツッコミを入れようとしたが、とある事を思い出して思いとどまる。


 それは彼女が7歳の時のある日のこと


「わたし、将来はもふもふした動物さんと暮らすの」


 ロリアイシャは、ロリルーフェルと遊んでいる時に、そのような将来の夢を語る。


「わたしもくらした~~い」


 すると、嬉しそうにルーフェルも即座に同調してきたので、それを見たアイシャはこのようなことを提案した。


「じゃあ、一緒に暮らそう。約束ね?」

「うん、やくそくだよ~」


 二人は指切りをして、一緒に暮らせる日を楽しみにする。


(そう…… あの時の事を覚えていたんだ……)


 そんな遠い日の思い出が蘇ったアイシャは、ルーフェルと視線を合わせる。

 ―が


「今の私はもふもふよりも、中央に復帰して四天王になりたいのよ!」

「えぇっ!? そんなぁ~!?」


 残念ながらアイシャの夢は既に変わっており、彼女はルーフェルにキッパリと言い切った。

 そんなアイシャの返答に、ルーフェルは悲痛な声をあげる。



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