第3話 弟子の言い分。
「親方、そんな子どもみたいな嫌がらせしてたんですか?」
一番弟子のベンは、呆れた表情で俺を見た。長い付き合いと言うこともあり、ベンは俺にも容赦ない。
「あいつが、浮気だって煩いから。」
「そりゃ、疑いたくもなると思いますよ?親方、全然大切にしてないじゃないですか。」
「うっ・・・」
痛いことを指摘された。ベンの言っていることは当たっていると思う。だが俺には上手く出来ない。
「まぁ、でも喜んでくれたんなら良かったじゃないですか。」
ベンはフォローするように笑って言った。
「それが分からないんだ。あいつは何であんなに喜んでいたんだ?」
俺の疑問に、ベンは目を見開き、がっかりした表情を見せた。
「はぁ、そんなことも分からなかったんですか?あのですね、親方は結婚前も結婚してからも、奥さんに何一つプレゼントしてませんよね?普通、花やら装飾品やら贈るのが夫の義務みたいなもんですよ。それをしていないあり得ない夫が、急にプレゼントをくれたから、奥さんは喜んだんですよ。」
ベンの話を聞き、俺は漸く合点がいった。それと同時に、無邪気に喜んでいたメアリーのことを思うと胸が痛くなった。
「大体、今まで工場にも入れなかったなんて、親方の妻としては悲しかったと思いますよ。いくら可愛い奥さんをジロジロ見られたくないからって。」
ベンの指摘は続く。
「誰にも取られたくないのに、何で指輪も贈らないんですか。・・・親方、スキンシップも、愛の言葉も、柄じゃないと思いますが、あんまり無下にしていると横から取られますよ。」
◇◇◇
今日もメアリーはにこにこと例の椅子に座り、アーサーの作業を見守っている。
メアリーはこの椅子に座って、読書をしたり、簡単な事務作業を手伝ったり、アーサーを見守るのに忙しい。アーサーは、あっという間にメアリーのために椅子に合う机まで作ってくれた。そして、今アーサーはパーテーションを作るのに忙しい。全ての男の目を引く、可愛らしいメアリーが弟子たちの目に出来るだけ触れないためのものだ。
(誰も取らない・・・というか取れないけどね。あれだけ溺愛されていたら。)
お互いに愛し合っているのに、いつもすれ違っている親方夫婦を見ながらベンは苦笑した。
《おしまい》
ふと、怒って椅子を作る男が舞い降りてきたので、書いちゃいました。読んでいただきありがとうございます!
ある夫婦のちょっと変わった、すれ違い話。 たまこ @tamako25
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