話し相手

Aさんには悩みがあった。

あれこれ考えていても解決しそうにないので、顔なじみの友人に相談を試みた。


「実は私、悩みがあってさ……」


レストランのテーブルを囲み、3人の友人に悩みを打ち明けた。

各々の返答はこうだった。


「こんな解決法を知ってるよ。数年前にやってみたら大成功だったの!えーと、あれは確か……」


Bさんは、自信の実践例を提示した。後は聞いてもいない過去の話を長々と話して勝手に満足していた。どうも、過去の話を聞かせたかっただけのようだ。


「うーん、私だったら、こんな方法が良いと思うな。ほら、これ見てよ」


Cさんは、スマホ画面を見せてきた。『お悩み相談』サイトを教えてくれたが、それで終わりだった。本人がAさんの悩みを解決しようとはしなかった。


「そんなことで悩んでるの?さっさと忘れて、パーっと遊んじゃおうよ」


Dさんの返答は、3人の中で最悪だった。悩んでいるAさんに食後遊ぶことを提案してきたのだ。真剣に考えてくれる素振りもなかった。


はあー……。心の中で大きくため息をつき、その日は過ぎた。


_______________


Aさんは自宅に戻った後、悩みの解決をネットのユーザーにゆだねた。

友人たちよりも、有効なアドバイスがもらえるかもしれない。

しかし、望みはあっさりと潰えた。

彼らも過去の自慢話や他人任せ、まともに取り合わない、の3パターンだった。


Aさんは腹が立った。


「どうして、私の話を真剣に聞いてくれないの!?悩みのことよりも、そっちの方が悲しいよ……」


_______________


Aさんは悩みの『聞き手』が欲しかったはず。

「そうだね」や「大変だよね」といった返事を求めていたのでしょう。

なのに、周囲の人々は『話し手』になりたがろうとした。

その結果、Aさんは余計に疲れてしまったのかもしれません。


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