不足
荒川馳夫
じょうろ
Aさんがまだ子どもだった頃。
父はAさんを庭まで連れていき、花壇に毎日欠かさず水を与えるように言った。
「どうして、やらなきゃいけないの?」
「おじいちゃんが大切にしていたものなんだよ。枯れないように、水をあげなさい」
Aさんが花壇を見ると、花たちは元気そうな様子だった。
Aさんは言いつけを守り、じょうろを持って作業をした。
丁寧に出来たとき、父はAさんを笑顔でほめてくれた。
水を花壇の外にこぼしてしまったときも、父は笑顔でほめてくれた。
少し雑に水をまいた日も、父は笑顔でほめてくれた。
「ありがとう、一生懸命に水をあげてくれたから花たちも嬉しそうだ。私もお前の頑張りが見られて嬉しいよ」
Aさんは父にほめられるのが本当に嬉しくて、父のことが好きになった。
大人になるまで、Aさんは花に水を与え続けた。
花が鮮やかにさきほこった。その立派な成長に合わせて、Aさんも自信に満ちあふれた大人へと成長した。
息子の旅立ちを笑顔で見送る父。それを笑顔で手を振るAさんの姿があった。
「ありがとう、父さん!!」
_______________
Bさんがまだ子どもだった頃。
母はBさんを庭まで連れていき、花壇に毎日欠かさず水を与えるように言った。
「どうして、そんなことしなくちゃいけないの?」
「おばあちゃんから譲られたものだからよ。つべこべ言わず、あんたがやりなさい」
Bさんが花壇を見ると、花たちは栄養不足で枯れつつあった。
Bさんは母からの言いつけを守らなかった。どうせ、枯れてしまうだろうと思ったからだ。
「どうして約束を守らないのよ。お母さんは悲しいわ」
「お花さんが死にそうになっているのよ。早く水をあげなさい」
「はぁ……、もういいわ。好きにしなさい」
母はBさんにあれこれと言わなくなった。ついには、Bさんを無視して夜遊びに熱中するようになっていった。
Bさんは母を恨み、成長するにつれて母に暴力をふるうようになった。
「こいつ、こいつ!」
「痛い!どうしてそんなことをするの?やめなさい!」
花壇の花たちは枯れ果ててしまい、親子関係もズタズタになってしまった。
「どうして私のことを見てくれないの?どうして愛してくれないのよ!」
_______________
Aさんは愛情をたっぷりと注がれて、立派な大人になれた。
きっと、Aさんの父も愛情を注がれて育ってきたのでしょう。
Bさんは愛情を注がれなかったために、寂しさから暴力をふるうようになった。
おそらく、Bさんの母も愛情を受け取れずに大人になってしまったのかもしれない。
花が水を必要とするように、子どもたちには愛情が欠かせないのです。
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