KAC第3回『ぐちゃぐちゃ』
綾野祐介
第3話 ぐちゃぐちゃ
ピンポーン。
チャイムが鳴った。圭子だ。拙い。俺は居留守を使うことにした。
「浩人、居るんでしょ。出てきなさい。出てこないなら勝手に入るわよ。」
しまった、圭子はスペアキーを勝手に持って行ってしまったのだった。
「女でも連れ込んでいるんでしょ、許さないからね。」
圭子はそう言いながら自分で鍵を開けて入って来た。俺はその場に立ち尽くしていた。
「あら、誰も居ないようね。靴もない。」
そう言いながら圭子はトイレや押入れを開けて確認している。そして、カーテンを開けてベランダも確認する。勿論誰も居ない。
「誰も居る訳ないじゃないか。」
「そうね、さすがに七階からは逃げられないと思うわ。だったらなんで直ぐに出なかったのよ。」
「いや、ちょっと寝起きで呆然としていたんだ、ごめん。」
現場を押さえられなかったことに不信感はぬぐえなかったが証拠が無ければどうしようもない。その時、圭子は証拠かもしれない物を見つけた。
「あら、これは何?」
それは40cmくらいの茶色い熊のぬいぐるみだった。テディベア風だがテディベアではない。
「こんな物、月曜に来た時は無かったと思うけど。誰かのプレゼント?にしては浩人の趣味が判っていないわね。浩人にプレゼントするならフィギュアでしょうに。」
「だよねぇ。」
「だよね、じゃないわよ。それでどこの誰から貰ったのよ。」
「これは。」
俺は答えられなかった。答えようがなかったのだ。煮え切れない俺に圭子は畳掛ける。
「言えないの?言えないような関係、ってことね。浮気は許さないって言ってあったはずだけど。今すぐ捨てて来て。」
俺は仕方なしに熊のぬいぐるみを抱えて外に出た。だが何か引っ掛かってしまって捨てられない。ぬいぐるみを持ったまま部屋に戻ってしまった。
部屋に戻ると顔をぐちゃぐちゃに潰したはずの圭子が居なかった。そして、見覚えのないぬいぐるみが一体置いてあった。
KAC第3回『ぐちゃぐちゃ』 綾野祐介 @yusuke_ayano
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