【KAC20233ぐちゃぐちゃ】さゆりはグラタンをかき混ぜる

世楽 八九郎

Spot life

 片田舎のファミレスの一角。女性4人組が着席した。

 久しぶりの再会なのか20代後半と思しき彼女たちは年齢不相応にわいわいと騒がしくメニューをめくり始める。

 各々が勝手に決めた注文を用紙に書き込み店員に渡すと、2人が勝手知ったる調子でドリングバーへ向かった。残った2人は互いに気を使うこともなくスマホをいじり始めた。

 ドリングバーの2人が戻ったタイミングで大ぶりのワインボトルが運ばれてきた。

 これには4人揃って拍手喝采してからそそくさとグラスに注ぎ始める。

 続いてテーブルに並べられたポテトとチョリソー、ピザ2枚と申し訳程度に頼んだシーザーサラダを前に乾杯すると、取り分けているのか奪い合っているのか分からない調子で食器と無遠慮な手を行き交わせ始めるのだった。

 2本目のワインボトルが運ばれてくる頃にはだいぶタガが外れたようで、彼女たちは弾けるような乾杯を響かせる。グラスがプラスチック製でなければ割れていたかもしれない。

 酔いが回ってきたのか、各々のペースで喋り、食べて、飲み始めた。

 そのうち長髪の1人が追加注文でグラタンを頼んだ。

 騒々しいテーブルに降り立ったクツクツと焼けたそれを前にした彼女は髪を軽くかき上げるとスプーンをグッと握り、グラタンに突き刺し、天地をひっくり返すようにぐちゃぐちゃに混ぜ始めた。子どもが遊ぶような調子ではなく手慣れた動作だった。

 他3人は咎めるでもなくその様子を眺めていたが、目配せを始めた。


「さゆ、そんな風に食べたっけ?」

「やぁ~? 見たことない」

「ないっしょ?」


 お互いを見やる瞳の動きに合わせて忙しなく顔を振りだした3人の視線はやがて、一点に集まる。


「「「おとこぉ~??」」」


 最高の酒の肴を見つけたと言わんばかりの3人のにやけ面に対してさゆと呼ばれた彼女は頷くように嚥下してから吐息を漏らすように答えた。


「元カレ」


 途端に『んだよぉ!』と3人は天井を見上げた。さゆはかき込むようにスプーンを動かし続ける。


「散々、好きって言われてもさぁ……」


 途中『熱ッ!』とつっかえながらも彼女は止まらない。皿をキレイにするとワインを一気に煽り、3人を睨みつけるように見つめた。その瞳が潤んでいたのはグラタンをかき込んだせいだろうか。


「こんなクセしか、残んなかった!」


 さゆが3人に向けて突き出したスプーンの腹にはチーズがこびり付いている。

 圧倒されたのか開いたままになっていた3人の口元が熱々チーズみたいに溶けた。


「「「さゆ~!」」」


 彼女たちは立ち上がると三者三様さゆに触れては勝手なことを言い始めた。

 最初はされるがままだった彼女もやがてケラケラと笑いだす。

 そして4人組はまたメニューを開き、賑やかに話し始めるのだった。


「さゆ! デザート! 好きなだけ頼みな」

「今回はあたしら持ちね」

「ティラミス、アイスにプリン……デザートワインもあんじゃん」

「……どんだけ食べる気だ、あんたたち」


 片田舎のファミレスの一角。女性4人組が楽しそうに食事をしている。

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【KAC20233ぐちゃぐちゃ】さゆりはグラタンをかき混ぜる 世楽 八九郎 @selark896

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