第8話 煌恋院ザクロ
煌恋院家は日本産マフィアとでも呼ぶべき元財閥の殺し屋集団である。
敵対派閥の古宇森家も潰し、業界最上位となった。
しかし、そこで問題が発生した。
古宇森圭、古宇森家の長男だ。
彼が「あの」殲滅作戦から生き残った。生き残ってしまった。
それはまさしく誤算であり、計算外であった。
埒外の存在、それが「古宇森圭」。彼はずば抜けた身体能力であり、それは古宇森家の最高傑作と言えるだろう。
私はそんな彼を煌恋院家の総力をかけて殺す事よりも、煌恋院家の仲間に加える事を選んだ。
この選択が間違いか正解か。
それはこの私の命で以て下される。
娘の煌恋院スミレの身柄を要求してきた彼は意図せず私のシナリオに乗った。
それはスミレによる「煌恋院家転覆計画」だ。
今の煌恋院家は腐っている。
だから私が先導して改革すべきだったのだが。
しかし、思ったより手こずっている。
こうなれば一から、いや零からやり直すべきだ。
それがスミレによる首のすげ替えと上位陣の排他だ。
しかし、それにはスミレは実力不足だった。
膂力の問題ではない。
技量の問題だ。
しかし技量の点でいえば、古宇森圭がおぎなってくれる。
彼を主人公として我が娘をヒロインとして置く物語。
そのラスボスは他ならぬ私だ。
煌恋院家の上位陣を一掃し、煌恋院家に新たな時代をもたらす二人。
この計画は秘密裡に行わなければならない。
だから今はまだ。
古宇森圭と煌恋院スミレはほのぼのと暮らしている。
しかし、いつスミレが「覚醒」してもいいように手は打ってある。
彼の長話が得意に(彼に言わせてみれば特異に)なっているのもまたその一環だ。
全ては輪のように繋がっている。
メビウスのような永遠を指している。
一つ、思い出したことがある。
懸念材料、と言ってもいい。
この物語の主人公、古宇森圭にこう問うた事があるのだ。
「やあやあ圭くん。私を倒す気はあるかな?」
計画は秘密裡に。
なんて言っている奴の台詞とは思えないが。
言ってしまったものは仕方がない。
すると彼はこう答えた。
「なんだ藪から棒に煌恋院ザクロ、俺の命は煌恋院スミレの身柄で担保されているはずだ。それとも何か? ボクが義憤に駆られて復讐劇にでも走ると? ハッ、バカバカしい。いっとくけど、ボクはあんたが嫌いだけど、殺したいほど憎くは無い。当時は知らなかったけど、今は煌恋院家と古宇森家の確執もスミレから聞いているしね、だけどまあ、もしあんたをボクが倒す時が来るとしたら、娘を見限った時だ。煌恋院スミレを見限った時だ。彼女の存在意義が失われた時、ボクは『自衛行為』に走るだろう。あんたの首を獲って煌恋院家に実力を示す。それが答えだ。シンプルで最も冴えたやり方ってやつだ。あれはボクからしたらバッドエンドだけど、地球からしたらハッピーエンドなのと同じように。アンタ、煌恋院ザクロからしたらバッドエンドでも、ボク、古宇森圭からしたらハッピーエンドなのさ。なにかおかしい事言ってるかい? まあボクはアンタが娘を見限るなんて真似出来るとは思って無いよ。スミレから聞いてる分だと随分な親馬鹿みたいじゃないか。全く笑えるぜ。他の家族は皆殺しする冷血生物がその実、身内には甘々の完熟果実だっとはね。でもまあ人間なんてそんなものなのかもな。ボクとしては人間関係に一家言持っているものだから、その感覚はいまいち分からないけれど」
確かこうだ。
彼の「人間関係に対する一家言」は私の紡ぐ物語つまりは計画に支障をきたすかもしれない。
どうしよもない歪さが、この物語の結末を捻じ曲げてしまうかもしれない。
だが、まあ、「その日」が来るまでは私、煌恋院ザクロは「ラスボス」としてここに鎮座しよう。
彼が宣言通りに私の首を獲るように。
ああ、古宇森圭、私を見誤ったな。
私は計画のためなら娘を見限る事が出来るとも。
いつだって、ね。
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