第6話 煌恋院スミレ


 古宇森圭は髪を脱色しており、白髪にしている。

 後ろ髪を伸ばして結っており、耳にはピアスを開け、二重まぶた。

 そこそこのイケメンであり、女子人気もそこそこ高い。

 

 彼に家族はいない。

 一人暮らしであり、同居人が一人。

 ん? 今矛盾しただろうって?

 いや気にするな。

 話を続けよう。

 彼は人質を飼っている。

 だから一人暮らし。

 命の担保としての絶対的価値。

 殺し屋のパーソナリティとしての存在意義。

 名前を「煌恋院こうれんいんスミレ」と言った。

 彼女の家、煌恋院家の人間に古宇森家のほとんどが滅ぼされ、生き残ったのはずば抜けた身体能力を持った圭ただ一人であった。


「ごはん、ごーはーんー」

「はいはいお嬢様」

「して古宇森圭、わたくしはいつ開放されるのかしら」

「君を開放したらボクが殺されるじゃないか」

「誰に?」

「煌恋院家に」

「そうだったわね」

「随分と忘れっぽいやつだな」

「まあこのかび臭い部屋も狭さ以外は割と満足していましてよ」

「満足していないやつの台詞だなそれは」

「して古宇森圭、今日はどんな話を聞かせてくれるのです。下界の話は聞いてて楽しいわ」

「下界て」

「?」

 綺麗に小首を傾げるピンクのフリルの付いたドレスを羽織った少女。煌恋院スミレ。

 煌恋院家とはかつての財閥の成れの果てであり、いわゆる日本産マフィアである。

 殺し屋をいくつも抱え、数多の敵を滅ぼして来た恐るべき人間組織だ。

 ボクをスカウトしたのも煌恋院家の人間だった。

 名前を煌恋院ザクロと言った。

 ザクロは煌恋院家の攻撃から生き残ったボクを殺し屋としてスカウトすると一つなんでも願いを叶えてやると言った。

「君には殺し屋として必要不可欠な『殺しを何とも思わない』精神性がある。それを見込んでの事だ。何か望みはあるかな?」

 そこで僕は望みを吐いた。

「お前の娘を人質に寄越せ、ボクの家族を一番多く殺したアイツだ。それがボクの命の担保になる」

 それを聞くとザクロは呵々大笑。

「いや面白い、いいだろう、あのじゃじゃ馬でよければ、手錠でもなんでも嵌めて貸し出そうじゃないか。あげはしないけどね」

 そんなこんなで今に至る。

 言葉を喰らう妖怪のような性質のスミレは毎回、古宇森の言葉を喰らう。

「じゃあ、ボクの家族の話をしようか、君が殺し尽くした、殺戮の限りを尽くした家族の話を」

「そういえばそうだったわね」

「本当に忘れっぽいやつだな、まあいい、家族ってのはボクにとって枷だった。常識倫理を押し付けて、ボクを枠に嵌めようとする厄介な存在、それが家族だった、だから大なり小なり君には感謝してるんだぜこれでも、だけどまあ家族がいなきゃ生活出来ない子供でもあった、同時にね。ボクはこれでも君と違って人間だから言葉だけ食べて生きていくなんて芸当は出来ないんだ。なんだっけ? 吸収した情報を脳でエネルギーに変換する、だっけ? 全く君は妖怪か何かなのか? おっと話が横道にそれた。まあだから衣食住を用意してくれた家族に最低ラインの感謝はしていたのさ、それを煌恋院家は一方的に奪っていった。そういや妹と弟もいたっけな、なんというか、少なからず可哀想だと思うよ、ボクがこんな感情を持つのは君からしたら不思議かもしれないが、ボクは兄弟関係というものを割と『確固たるもの』寄りの認定していたのさ、友人、恋人、父、母、それよりは割と信頼出来るという方向性でね、対等という関係性において兄弟は割と大きいアドバンテージだと思った。思っていた。だから将来が楽しみであったんだけど、君が殺してしまったから将来もクソも無くなってしまったのだけれど、まあ恨みは無いよ、ボクはボク自信の命の担保が出来ればそれでいい、そのために君を飼っている。家族もまた同じだ。ボクにとって家族とは命の担保の一つだった。ただそれだけだった。だからそれが入れ替わっただけだから、君は最初から気にしていないだろうけど気にする事は無いし、ボクも後悔していないという訳だ。煌恋院家とのパイプが出来た事もこれ幸いと言った感じだ。今はこんな狭い部屋に住んでいるけれど、それなりに莫大な貯金をしているんだぜ? まあ煌恋院家の財産に比べたら微々たるものだろうけど、ボクは命の担保さえ出来ているのならそれでいいのさ、さて、今日の話はこれくらいだ、オムライスが出来たよ」

 するとスミレは首を傾げて。

「つまり何か? わたくしとお前は今、家族なのか?」

「……口調がおかしいぞお嬢様」

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