第5話 隣の席の新島雅


 俺こと新島雅は変人である。

 友人はそこそこいるし。

 彼女もいる。

 けれど。

 そんなことより気になる他人がいるから変人なのだ。

 隣の席の「古宇森圭」だ。

 彼は後ろの席の「渡歩夢」を親友と呼んでは煙たがられており。

 前の席の「森山小春」からアプローチを受けてはそれを断っている。

 そんな彼を不思議に思い、俺は毎回、彼に問いかけをする。

「やあ、古宇森」

「おや新島くん」

「ミヤビでいいぜ」

「そこまで距離感を詰める気はないな」

「連れないじゃないか、歩夢とは親友なんだろう?」

「さてね」

 いつもこうだ。

 答えをはぐらかすのがこいつの常套手段だ。

 だから今回は徹底的に質問攻めにする事にした。

「なあ、お前にとって友人ってなんだ」

「また急だね」

「気になったからな、そういう性質なんだ」

「ふむ、友人ねぇ」

 顔を俯かせて顎に手を当てる。

 こいつの「癖」だ。

「少し長くなるけどいいかな」

 これもこいつの常套句である。

 テストに出ない系の覚えておかなくてもいい情報だ。

「いいぜ、俺から聞いた話だ。一時間でも二時間でも聞いてやる」

「そこまではかからないけどね、まあ、友人というカテゴリは実はボクの中には存在しない、というのもボクは曖昧な物が嫌いな性質なんだ。確定したものこそ価値があると信じている。そしてボクの言う『確定したもの』というのはボクの中で確定した価値観だ。不変ではないが、その瞬間の絶対値として表示された確定値がソレだ。だからボクはその理屈に基づいて動く、だから一方的に向けられた友人という関係性を受け入れる事は無い。一方通行的ならともかく、両想いなんて不確定的なものは信じるに値しないからね、ボクの価値観からして友人、恋人……家族、その他諸々の関係性は常に一方通行だった。だから半ば確定している事柄なんだ。だけどまあボクは少し天邪鬼なんだな、結論を『確定』させるのが嫌いでね、君の問いに『明確』に答えを出すのに少し忌避感がある。だからボクとしての友人とはなにか? という問いに対する答えは『保留』という事になるけど、それじゃ君は満足してくれないだろうから『暫定的』な答えを出そうと思う、それは『変動的な価値観』だ。つまり株価みたいなもんだな。そう、ボクにとって友人ってのは株価と一緒だ。買い時もあれば売り時もある。その程度の関係性でしかないとも言えるし、それくらいの関係性とも言える。どうかな、納得してもらえただろうか」

 俺は少し考えた後。

「相変わらず変な奴だなお前」

 と言った。すると古宇森は。

「鏡、貸そうか?」

 と聞いてきたので。

「また今度な」

 と言ってその場を後にした。

 今日の授業は面倒くさいのでサボタージュする事にしたのだ。

 全く無駄な時間を過ごしてしまった。

 帰って寝よう。

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