第4話 バスジャックとジョーカー


 今時、日本でバスジャックがあるだなんて。

 流石のボクも驚いた。

 この前の小太りといい。

 拳銃が流通し過ぎじゃないかこの世界。

「死にたくなかったら動くんじゃねぇ!」

 偽物ではない証に一発、天井に撃ち込んでみせるバスジャック犯。

 危ないなぁ、跳弾したらどうするんだ。

 しかし、どうしよう。

 ここで颯爽とボクが短刀で事件解決してもいいんだけど。

 そうするとボクが殺し屋だって事が乗客にバレてしまい。

 今度は大量殺人事件に発展してしまう。

 それは避けたいところだ。

 つまるところ。

 ボクは短刀無しでこの状況を打破しなきゃいけないってことだ。

 となるとボクが出来る事は……。

 ボクはすっと手を挙げる。

「なんだテメェ! 動くなってんだろ!」

「少し話をしてもいいかな? 命乞いってやつだ」

「あん!?」

 拳銃はこちらに向けられたまま。

 まあ、あれなら目視でかわせるし問題ない。

 ボクは動体視力がいいんだ。

「まずキミがなんでこんな行為をしているかについてだけど、いくつかの推理が出来る。テロル思想、金銭目的、破滅願望とか他にも列挙していけば暇が無い。だけどまあ今回の場合は破滅願望が近いんじゃないかな。かれこれ数時間、バスを走らせ続ける君は先ほどから要求を口にしない。つまりは此処にいる全員を巻き込んだ心中、それがキミの目的だろう。だけどそれは無理だ。とりあえずボクは死ぬ気はないし。此処は内陸部だから落ちる水辺も無いし、平野だから落ちる崖も無い。ガソリンスタンドに突っ込むって手もあるが、確実に爆発する保証も無い。つまりはキミの計画はこんなところから始めてしまった時点で詰んでいる。だけど安心して欲しい、ボクとキミをバスから降ろしてくれればボクが代案を用意しようじゃないか、きっとキミは気にってくれると思う、だけど少し待って欲しい。此処で、つまり公で話すには少し物騒な話だからね。銃を向けられた状況で物騒もなにもないとはボクも思うけれど、それでも物騒なんだ。信じて欲しい、こうして命を賭けて、命をベットしている交渉だ。キミに後悔はさせないよ」

 いつの間にか、銃は下におろされていた。

 長話に呆れたのか、はたまたボクの提案に乗ったのか。

「……いいだろう、だけど条件がある。俺とお前が降りるんじゃない。お前と俺が此処に残るんだ」

 そう来たか!

 これは面白い。

 その後、乗客と運転手を全員降ろした後、そいつはあろうことかボクにバスを運転させたのだ!

 楽しくなって来た。

 こめかみに銃口が当てられている。

「さあ聞かせてもらおうか、お前の提案とやらを」

「ああ、それなら終わってる」

「は?」

 ボクは片手で運転しながら片手で短刀を抜き出し、片手間に男を分解した。

 残念な事に緊急事態だっために「死にたくない」は聞けなかったけど。

 彼は稀有な「死にたい」人材だったからもしかしたら最初から望み薄だったかもしれない。

「しかし、このバスどうしよう」

 運転などした事が無いので止め方が分からないのだ。

 とりあえず適当に操作していたら電柱にぶつかって止まった。

「死ぬかと思った」

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