第3話 殺し屋の古宇森圭


 ボクが心情を吐露することはない。

 ボクは理論立てて行動している。

 理論より先行するものはない。

 今日もボクは斬って捨てる日々だ。

 短刀を片手にボクは行く。

「やあやあ元気かい?」

「ひっ」

 小太りのおっさんだった。

 どうしようもない性犯罪者でもあった。

「未成年者ばかり買うのはよくないと思うよ?」

「だ、だからってなんでお前らみたいな殺し屋が出張ってくる!?」

 おや? ボクを殺し屋と知っているらしい。

 珍しい。

「どうしようもないやつには殺しの依頼が来る、当然の道理だろう?」

「クソッ!」

 そいつは銃を向けてきた。玩具には見えなかった。

「素人が撃つと怪我するよ?」

「これでもアメリカで試射済みだ!」

 おっと、こいつは厄介だ。

 的当て感覚で狙われたらたまったもんじゃない。

 ボクはトンッと一歩踏み出すと銃を一瞬の内に分解した。

 短刀一本で。

 バラバラになった銃を前に。

 おっさんは狼狽する。

「は? は? はぁ?!」

「ちょっとした講義をしようか」

 ボクはコホンと咳払いすると。

「人ってのは自分の命を最優先する、五右衛門風呂の五右衛門の話が有名だね。他人の命を優先するって事は少ない。無いと言ってもいい。だけれどそれは仕方ない人間というより生物に与えられた生存本能の発露なんだから、だからこそ人は死に際に「死にたくない」と呟くわけだけど、ああどうしてだろう、ボクはその一言を聞くためにこの仕事をしている。ぶっちゃけ、金に苦労はしてないし、表の顔ってやつもある。だけどね、どうしようもなく『死にたくない』が聴きたくなる時があるんだ。人間の生存本能の発露、その瞬間、その瞬きのような、一言を聞きたくてボクはこの仕事に就いた。ボクをスカウトした人も、こんな事を言っていたな、『君には才能がある、殺しの才能じゃない、。この仕事には必要不可欠な才能でね、これが無いと潰れてしまう人が多い』だったかな。一言一句正確に覚えている自信は無いけれど、だいたいこんな風だったと思う、その人はボクの事をまるで冷血人間のように語っていたけれど、まあ否定はしない。例え殺しの対象が『親友』だったとしてもボクは躊躇なく殺すだろうからね、そういう意味では冷血なんだろう。だけどもボクは無感情な訳じゃない。好奇心は猫を殺すなんて言葉があるけれど、まさしく『古宇森圭の心は人を殺す』のさ。その欲求は止められない、こればっかりは仕方のないことなんだ。だから死んでくれるかい? 以上、講義終わり」

 タメになっただろうか。

 這いずる男の足の腱を斬って動けなくした後、ゆっくりと分解した。

 銃の時とは逆にゆっくりと。

 その時確かに「死にたくない」が聞けたと思う。

 多分、その時、ボクは笑ってたんじゃないかな。

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