第2話 片思いの森山小春


 昔、古宇森くんが告白されている場面を見た事がある。

 その時のやりとりはこうだ。

『好きです! 付き合ってください!』

『あはは、好意は嬉しいけど、ごめんね、そういうのに興味は無いんだ』

 だった。

 そういうのとはどういうのだろうか。

 私は気になって古宇森くんにアタックしている。

 丁度、後ろの席にいるし。

「古宇森くん、古宇森くん」

「なんだい? 森山さん」

「今日は渡くん、休みみたいだね?」

「ああ、そうみたいだね」

 あれ? おかしいな。

「何か聞いてないの? 親友なんでしょ」

「いや、なにも」

 ???

 どういうことだろう。

 私はそのまま疑問を口に出した。

「親友なら一言くらい連絡あるんじゃない?」

「ボクらはそういうのじゃないから」

 また『そういうの』だ。

 私は深く切り込む。

「そういうのって何?」

 すると古宇森くんは深く顔を俯かせて指を顎に当てた。

「少し長くなるけど、いいかな」

「……どうぞ」

 コホンと古宇森くんが咳払いすると。

 講釈が始まった。

「人の好意というのは、ひどく移ろいやすいものだ。確固たるものなどない、百年の恋も冷める時が来るというし、友愛だってそうだ。百年の友情が切れる事も、まあ、あるんだろう。だから、ボクは誰に対しても平等にドライでいたい。好意を向けられるというのは嬉しい事だけれど、それが不変でない証拠なんてどこにもないだろう? だからボクは自分から好意を向けないし、好意を受け取ることもない。いつか科学が『好意=不変』であるという方程式を導き出すまではね。ああ誤解しないで、僕は決して科学信者ってわけじゃない。まあかといって敬虔な仏教徒とかでもないんだけど、母はプロテスタントだし。おっと話が横道にそれたね。でもね科学ってのは割といい担保だと思うんだ。リスクに見合った結果を出してくれるという意味ではね。ちょっと芸術性に欠けるのが難点かな。数式は最も美しい形だと言う人もいるけれど、ボクとしては数式は数式でそれ以上でもそれ以下でもないというのが結論。そう結論といえば好意についての結論は『保留』だよ。つまり『そういうの』ってのはボクの中で『好意』についてだと解釈した結果だけど、あってるかな?」

 一息に言い切った古宇森くんを見て私は一言。

「わかんない」

 と答えて前を向いた。

 前を向いたという事は古宇森くんに背を向けたという事なので。

 彼の表情はわからないけど。

 多分、笑ってたんじゃないかな。

 変な人だなぁ。

 そう思ってたら始業のチャイムが鳴った。

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