恐怖! クマゾンビ!

緋色 刹那

🧟

 マッドサイエンティスト・大隈おおくま博士は「最強のゾンビ」を生み出すべく、世界中のあらゆる生物をゾンビに変えていた。

 ほとんどの生物がゾンビウイルスに耐えきれず、体がぐちゃぐちゃに崩れ落ちる中、クマの大五郎だいごろうだけはウイルスに適応。大隈博士は「長年の研究が実った!」と歓喜した。

「今日からお前はクマのゾンビ……ゾン五郎だ! 分かったか、ゾン五郎!」

「グマァァァッ!」

「や、やめろ、ゾン五郎! 私はお前の育ての親で……ぐぁぁぁ!」

 喜んだのもつかの間、大五郎あらためゾン五郎は大隈博士を襲い、研究所を脱走。解き放たれた怪物に、街の人々は恐怖した。

 ゾンビは頭を破壊すれば、活動を止める。しかしクマは頭骨が硬く、銃弾が貫通しなかった。

 まさに、最強のゾンビ。警察と猟友会は何の策も講じれぬまま、ゾン五郎を見失ってしまった。


「あ! クマさんだ!」

「グマ?」

 警察と猟友会を撒いた後、ゾン五郎は街から少し離れた民家の前を歩いていた。

 その家には一人で留守番をしていた小学生・蜜子みつこがいて、オヤツのパンケーキにハチミツをかけている最中だった。蜜子は窓越しにゾン五郎を見つけると、嬉しそうに駆け寄った。

「クマさん、ハチミツ好き?」

「グマミ゛ヅ?」

 ゾン五郎は首を傾げる。

 ハチミツなど、見たことも嗅いだこともない。研究所にいた頃は、味気ない栄養食ばかりだった。

 蜜子は器にハチミツを注ぐと、ゾン五郎の前に差し出した。

「お食べ」

「グマッ」

 ゾン五郎は甘い香りにそそられ、ハチミツをぺろぺろ平らげた。

 直後、ゾン五郎の体は溶け、ぐちゃぐちゃになった。大隈博士も知らなかったが、ハチミツにはゾンビウイルスを相殺する成分が含まれていた。

「溶けちゃうくらい美味しかったの? 良かった」

 蜜子は笑顔で、部屋に戻った。

 こうして、世界最強のクマゾンビ・ゾン五郎は、一人の優しい少女によって「美味しく」倒されたのだった。


(終わり)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

恐怖! クマゾンビ! 緋色 刹那 @kodiacbear

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ