ぐちゃぐちゃはよろしくない

桜咲吹雪

三回目(3/6)

 いくつかある自分の欠点の中に、面倒くさがり、があります。


 食事時、料理をするのが面倒くさい、買いに行くのも面倒くさい、みたいな気分のときには冷蔵庫をただ開いて、そこにある生たまごだったり納豆をぐちゃぐちゃとかき混ぜてごはんにのせ、もぐもぐ食べて終わりにしてしまいます、人間らしい情緒を欠いた食物摂取。


 ところでこの、『ぐちゃぐちゃ』とか『もぐもぐ』などという、いわゆるオノマトペは実に便利で素敵だと思いませんか?


 会話をするのが面倒くさいなあ…なんて思ってしまうとき、ついついオノマトペ全開で言葉を発してしまうときがあります。


 「えっと、あっちにどかどかって置いてあったシュワってなる青いのガサッってなってたの、むこうのちょこっとしてたとこに、モサッてした」


 日本語壊滅。

 しかし、これで伝わるわけで。


 「ああ、バックヤードに置いてあった納品済みのA社の中和錠の箱を奥の倉庫に移動させたんですね、はいはい」


 さすがは長年連れ添った同僚よ、オノマトペ便利だなぁ。

 つーかさ、人はやっぱり以心伝心することができれば、言葉なんていらないのよ、最後はハートよな!

 などと感心し、つい調子に乗った面倒くさがりの自分は、繫忙期の忙しいとき、テレパシーを使ってみたのだった。


 処理が追いつかない伝票、鳴り止まない電話、次々と現れる来客、耐えきれなくなった自分は、奥から応援にやってきた先輩へテレパシーを送る、(このお客様の対応をヨロシク!)みつめあう自分と先輩、そのまま先輩はコクリと頷く…。


 やがてピークも過ぎ、それから二時間後。


 先輩「さっきのなんだったん?」


 自分「いやぁ、テレパシー送ってみたんですが無理っした?」


 先輩「さすがに分からんわ」


 しばらく待合室で放置されたままだったお客様の寂しげな背中を思い出しながら、しみじみと考える。


 デスヨネー! 人類にテレパシーはまだ早かったわ、じゃあの!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ぐちゃぐちゃはよろしくない 桜咲吹雪 @fubuki-sakurazaki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ