ぐちゃぐちゃをもっている

一陽吉

平凡な高校生だがじつは……という展開でぐちゃぐちゃする

 巻上魔那子まきがみまなこ


 俺のクラスメイトである女子。


 小柄で口数が少なく、目立たないんだけど、唯一の特徴が前髪で左目が見えないこと。


 それが某有名漫画の主人公みたいだからキタコって呼ばれてる。 


 そんな彼女なんだが、最近、俺は気になっている。


 まあ、ふつうに考えれば恋で、キタコに惚れているからということになるが、そのきっかけがない。


 たとえば廊下の角でぶつかったことで意識するようになったとか、そんな出来事やエピソードがあってのものだろうが、そういうのが全くない。


 でも気になって、すきあらばチラ見してるんだよな。


 とか思ってたらなんと、キタコの方から放課後に空き教室へ一人で来てくれと言われた。


 断る理由がないんで、いまこうして待っているんだが。


 キタコ、遅いな。


「──お待たせ」


 静かに戸を開けてキタコが入ってきた。


 机や椅子が奥に積まれてがらんとしてる以外はいつも見てるのと同じかんじだ。


智樹ともきくん、今日はあなたを試したくてここに呼んだの。そして、はじめに謝っておくわ。ごめんなさい」


「え? それ、どういう──」


 何を言ってるのかよく分からないから聞こうとしたが、周囲の空気が一変した。


 キタコがこの空き教室に結界を張ったんだ。


 そして、左手で髪をよけると、普段は隠れている左目が現れた。


 一瞬、ふつうだと思ったが、その瞳は赤い蛍光色のペンで子どもが落書きをしているように、ぐちゃぐちゃとしながら動き始めた。


「お、おまえ、それは──」


 驚く俺にかまわず、ぐちゃぐちゃの瞳から一メートルほどの長さをした一本の線が落ちると、それは伸びて人のかたちになった。


 俺と同じくらいの大きさだが、なるほど。


 キタコは『創』のぐちゃぐちゃを使うんだ。


 線画というかんじで性別はなく、記号のような印象のそれは、俺に襲いかかってきた!


「くっ」


 俺はそれに向かって開いた右手を突き出した。


 ただ突き出したわけじゃない。


 手の平からぐちゃぐちゃと動く黒い光の線が展開されている。


 これは俺のもつ『消』のぐちゃぐちゃだ。


 キタコの線は俺のぐちゃぐちゃに触れてぐちゃぐちゃになり、消滅。


 跡形もなく消えた。


「思ったとおりね」


 そう言いながら、キタコは再び前髪で左目を隠すと、張っていた結界も解いた。


「おまえもぐちゃぐちゃをもってたんだな」


「そうよ」


 頷いて答えるキタコ。


 それで合点がいった。


 俺がみょうに気になったのはたぶん、キタコがだ。


 でも変だな。


 今は六月。


 入学して二ヶ月ほど経ってるのに、なんでいまごろ気になりだしたんだ?


 そう考えているとキタコは俺に歩み寄り抱きしめた。


「お、おい」


「私の花婿にふさわしい男子を見つけろとお父様に言われてフェロモンを出していたらあなたが反応した。実力も見せてもらった。だからお願い、結婚して」


「あ、ああ?」


 ちょっと待て。


 なんかもの凄いこと言ってないか?


 えーと、つまりキタコがフェロモンを出していたから俺は気になるようになって、花婿の基準値を超える実力を示したたから結婚してとお願いされているのか。


 て。


 結婚!?


「ちょ、キタコ」


 俺はキタコの両肩をつかんで離し、同じ目線になった。


「同じぐちゃぐちゃの能力者に会えたのは嬉しいし、かわいい子に結婚してと言われるのも最高なんだけど、俺たち高校生だ。それは早すぎじゃねえか?」


「そんなことないわ。なんなら、結婚を前提としたお付き合いでもかまわない。だからお願い。私のそばにいて」


 やや顔を赤らめつつ、俺が映る瞳でうったえかけるキタコ。


「……別にいいけど」


「ありがとう!」


 俺の返事に喜び、再び抱きつくキタコ。


 付き合うのがダメな理由もないし、いいだろう。


 それに。


 やっぱ女の子に抱きしめられるのっていいもんだしな。


 て。


 う、うん!?


 キタコの左目からぐちゃぐちゃが漏れてる!


 高まる気持ちで抑えが緩くなってるんだ。


「キタコ」


 俺は慌てて自分のぐちゃぐちゃで、キタコのぐちゃぐちゃを消した。


「あらやだ、ごねんなさい」


 左手を左目に当てながら謝るキタコ。


「はは、大丈夫だ」


 俺はとりあえず笑顔をつくりながら答えた。


 付き合うのはいいが、この先、けっこう大変じゃねえか?


 

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