私と彼
広川朔二
私と彼
朝六時にスマートフォンにセットした目覚ましが鳴る。
コーヒーを淹れて目覚めの儀式をしたら身支度を整える。着る服もルーティーンで決まっているので時間をかけることはない。
いつもと同じ道を通り、いつもと同じつり革に掴まり出勤する。
仕事が終わると曜日ごとに決まった弁当を買い、同じ時間に眠りにつく。
就職を期に東京に越してきた私の一日の過ごし方だ。小さい頃から几帳面で典型的なA型だと揶揄されてきた。
私自身それを否定するつもりはない。全ての事柄が予定調和で進むことこそ至上の喜びだ。
そんな私は最近非常に強いストレスにさらされている。
「先輩! おはようございます!」
その原因が彼。異動してきた彼の面倒を見ることになった私。後輩を指導した経験はある。指導マニュアルに沿って業務を教えるだけだ、そう思っていたのだが。
「今日、仕事終わりに食事でもどうです?」
「お昼一緒に食べませんか?」
「休みの日はどうやって過ごされているんですか?」
私の日常にズカズカと入り込んでくるこの男。
職場の人間と仕事以外で馴れ合うつもりはないし、昼食は一人決まった食事をしたい。休日のことをこの男に教える必要はないし、この男のプライベートな話を聞くつもりはない。
生活の大半を占める仕事で私のペースを乱してくるこの男。
それはやがて小さな歪となり生活リズムを狂わせていく。
「曜日毎に同じ格好ですよね」
その言葉がやけに響き、服のルーティーンを変える。
「ついてきちゃいました」
いつもは一人席ですんなり入れるレストランで想定以上に並ぶことになり午後の始業に間に合わない。
あの男の行動に起因する僅かなことが生活を乱していく。
そんなことが続き、仕事以外でも脳裏をよぎるあの男。先輩、先輩と私を呼ぶあの男は百面相のようにいつも違う表情だ。
いつの間にか四六時中あの男のことを考えている。
もう私の頭の中はぐちゃぐちゃだ。
私と彼 広川朔二 @sakuji_h
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