乙女の始動
「まずは...何をすればいいかしら」
日が差し込む部屋で私は机に向かっていた。一枚の紙に現状を書き込み、やるべきことを洗い出す。
「リリス様の無実を証明するには.........そうね。薬草を取り寄せていないことと、薬草は本当に毒薬だったのか、という事かしら」
欲を言えば誰が陥れようとしたのかも知りたいが、まずはリリス様がやっていない、という事を事実にしなければならない。
「でも、お医者様が毒草だとおっしゃったのよね?」
報告書にもそう書いていった。王宮の医務を司る医務長と、以下数名のお使者様がそう判断したらしい。でも、お医者様でも間違いはある。リリス様はただこの地にはない、私達が知らない薬草を取り寄せて、それを勘違いされただけかもしれない。
「あ、そういえば、リリス様の部屋にはたくさんの本があったわ」
リリス様はお優しい方で、私がフラッと部屋を訪ねても、無下に扱わずに相手をして下さった。お蔭でリリス様のお部屋の本は大体把握している。
「どうにかその本を入手して、薬草を調べられればいいのだけど.......」
後は城に出入りする行商人への聞き込みね。リリス様が取り寄せた物の名前を聞きださなくてはいけない。
「リリス様のものって、今はどこにあるのかしら」
それがわからなくては話が始まらない。どうにか探し出せないかと私が考えていると、どこからもなくリコがしょっこりと顔を出した。
「リコ?」
私がリコに話しかけると、リコは着いてきて、と言わんばかりにドアを足で開け、廊下へと向かった。
「ちょ、ちょっと待ってちょうだい!」
私が慌てて紙を机の引き出しに隠し、後について行った。
「へえ、こんなところがあったのね」
リコはずいぶん遠くまで走り、別館の地下へと階段を下って行った。私も随分と城を回っているつもりだけれど、こちらの方には来たことがない。階段を降り切った先には、小さな部屋があった。リコはそこで立ち止まり、ニャーと鳴いた。
「ここにある、ってことかしら」
ドアの隙間からそっと覗くと、所狭しと並べられた棚と、2人の兵士がいた。こっそりと棚の方を見ると、少し奥の方に見慣れた本が数冊置かれていた。
「間違いないわ。だけど、絶対くれないわよね.......特に私には。」
私がリリス様と懇意にしていたのはほぼ全員が知っている。だからこそ私には秘密裏に追放された。でもどうにかして手に入れなければ、乏しい私の薬学知識ではろくに名前もわからない。
「どうにかして..................あ」
少し考えた私の頭に、ある考えが浮かんだ。
「私、まがいなりにも姫、よね」
自分の立場を忘れていた。私は第6王女といえど、国王の娘。対してあちらは雇われ兵士。少し申し訳ないが、持てる物は使わなかれば。
「失礼」
「!エミリア様。どうかなされました?」
私はなるべく毅然とした態度を試みた。なるべく、高圧的に。
「ここにリリス様の私物があると思うのですが」
「はい、ございますが.........」
「お、お渡しすることは........」
あら、もう手が入っていたのかしら。でも、やるしかないわ。
「その中に.........私が頼んでおいた、滅多に手に入らない書物があるの。それはもらえるわよね?」
「え、ええ.........?」
「リリス様の」私物が欲しい、と言えばもらえないかもしれない。でも、「私が」頼んでおいたもの、と言えばどうだろうか。
「リリス様に頼んで、何か月も待ちわびていた物なの。内密にしておくから.........どうにか、もらえないかしら?」
「あ、え.........」
「えっと......」
これはもう一押しで行ける。私はわざと笑みを浮かべ、ゆっくりと迫った。
「いいわよね?」
後はもう知らない。私の渾身の脅しがどれだけ効いたか。果たして、どうだろうか。
「は、はい.........」
「しょ、承知いたしました.........」
やったあ!
兵士達に案内され、リリス様の私物が収められている棚に向かい、できるだけ(怪しまれない程度に)の本を入手した。後はこっそりその他私物も手に入れた。
兵士達に口止めをしたのち、私は速足で部屋へと帰った。
リコにはたっぷりご褒美をあげないと。
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