恋バナと現実


「よーし! じゃあ食事にありつくとしよ.........って、オーガはもう食べてるか」

 

 シャトーの言葉に俺が隣を見ると、待ちきれなかったらしいオーガが既に肉を食べていた。


「味はどうだ? そこまで変な味ではないはずだが......」

 

 感想を聞くとオーガは口いっぱいに頬張ったままコクコクと頷いた。


「ん!」

 

 後何か言っていたが、残念ながら聞き取れなかった。全部飲み込んだら聞かせてもらおう。

 オーガにすべて食べ尽くされる前に、肉の刺さった串を一本手に取り、口に運んだ。王族が食べている、と言うのは聞いた話であり実際に食べている現場を見たわけではない。オーガは食べていると言えど、味覚だって違うだろうし。どんな味がするのだろう。


「......いただきます」

 

 そっと口に一切れ運ぶと思ったよりも柔らかかった。しかも美味しい。普通の家畜の肉よりも美味しいんじゃないか?


「これは珍味になるはずだ......」

 

 あっさりとしていて食べやすい。塩とかかけたらもっと美味しいんじゃないか?


 結局、山ほどあった肉は燻製にする間もなく消えた。



「いやー、意外と行けたみたいだなリリス坊」

「そうだな。ここまで食べやすいとは思っていなかった」

「おにく、おいし!」

 

 オーガも満足げだ。広い森の中だ。獣はいくらでもいるだろう。狩りに言ってもいいし、罠を仕掛けておくのもいいかもしれない。今日はもう暗いし、明日にでも提案してみるか?



「ところでリリス坊。その、リリス坊は王宮にいたんだろう?この手の物珍味は食べたことが無いのか?」

 

 シャトーが一輪車をガラガラ進めながら倉庫へ向かう廊下で尋ねた。


「かなり貴重なものだからな.........第一そこら中に獣がいるわけでもないし、毒を使ったら食べれないだろう?」

「なーるほどな」

「俺も姫君から聞いた程度だ。現物も今日が初めてだ」

 

 スコップやらなんやらをを片付け、一輪車を壁に立てかけた。俺が持っていたランタンに乗り移ったらしいシャトーが、テンション高めの声で耳元で囁いた。


「ほー…親しい姫君がいたのか?やるじゃないかリリス坊」

 

 熱いからやめてくれ。ランタンだぞ。ランタン。耳元で蝋燭持ってるような物じゃないか。


「そんなことか.........そういう仲じゃない。顔見知り程度だ」

「なんだ.........恋バナが聞けると思ったのに」

 

 明らかに残念そうな声を出すな。というか、お城も恋バナが好きなのか?じじいなのに? 御年2千オーバーなのに?


「まあいい! その手の事はゆっくり聞くとしよう! じゃ、今日は遅いし、ゆっくり寝てくれよ、リリス坊」

 

 諦めてないな。つっついたって出てこないぞ。とはいえ流石に一日中の農作業(と狩り)は体に応える。早く寝るとしよう。





「りりすおきる!」

 

 目が覚めたら、最恐龍王が隣にいる世界。俺は未だに慣れない。というか、慣れてはいけない気がする。でも慣れてしまう気がして怖い。


「はたけ、いく!」

 

 ああ、畑が見に行きたいんだな。だからこんな早朝朝4時に......


「流石に芽は出てないと思うぞ。水をやるくらいしか...........行くぞ」

 

 ダメだ、あの動く尻尾と輝く目を見たら断れない。俺はすぐに着替えて外に出た。


「はたけ!」

 

 オーガが俺を置いていく勢いでずんずん進んでいく。じょうろは持ってきたが、水源ってあるのか? 昨日はどうしたんだ?

 

「ついた!」

 

 畑まで距離があるわけでもないので、すぐに着いた。オーガは初めてだから知らないだろうが、植物は種を植えたからと言って、すぐに芽が出て食べられるようになるわけではない。がっかりするだろうなと、俺は畑を

見たが、次の瞬間自分の目を疑った。



「噓だろ..........?」



 俺の目の前には、過去一喜んでいるオーガと、一日で育ったとは思えないほどに伸びた作物が当たり前のように並んでいた。 



 待ってくれ そんなことは 聞いてない。


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