焼肉とお城
「よーし!さばけたぜ~」
陽気な声と共に、ナイフが飛んできた。危ないからやめてくれ。しかも血が付いたままじゃないか。軽くホラーだぞ。
「おっと、ナイフは錆びちまうんだったな」
「で、あの肉どうするんだ?焼くか?煮るか?それとも.......」
「取り敢えず焼いてみよう。味にもよるが、あの量だと燻製や干したほうがいいかもしれない」
俺がちらりと目をやると興味深げに尻尾を揺らしながら見つめるオーガと、山のような魔獣の肉片が石の上に積まれていた。
「おにく.......」
「そうだぞオーガ~。これがあの本の肉だ」
ああ、そうか。オーガは大体消し飛ばすからその後の事は知らないのか。あの本だって材料が載ってる訳じゃないから、もしかして、初めてなのか?
「おにく、どうする?」
「リリス坊が言うには、取り敢えず焼いてみるらしいぜ」
「ああ。串にでも刺して焼けば、まあ食べられるくらいにはなるんじゃないか?匂い消しなら薬草がある」
俺の提案にオーガは乗り気だった。
「やく!」
「よ~し、じゃあまずはこれが刺せそうな細い棒.......」
シャトーが周りも見回し、一輪車の中も探したが、それらしいものは見つからない。
「.......木の枝でもいいか?」
「構わない。ちょっと湿らせれば燃えないだろう」
「じゃあ、切るぜ~」
シャトーはそのまま適当な木まで飛んで行くと(もちろんナイフのまま)適当に振り回して手ごろな枝を運んできた。
「じゃあ、これに刺して.......あ、5か6ぐらいでいいからな」
いきなりまとめて刺そうとしたオーガに適量を伝え、俺も一本、二本と石の上に置いた。
「かなりの量だな」
「まー、あんだけやれば、な」
大量に積まれた肉の串刺しを前に、俺はどうやって焼けばよいだろうかと思案を巡らせていた。普通に焼こうとすると薪と時間がかからなか?ここはやはり魔術を使ったほうがいいのだろうか.......
「んで、これ、どうやって焼くんだ?木とか切るのか?」
言葉の節々にやりたくない感が出てるぞ。正直俺も力仕事は嫌いだが。
「オーガやく!」
その話を周りで聞いていたオーガがスタスタと肉の近くへ歩み寄ると、すっと腕を前に出した。オーガがやってくれるのはありがたいが、どうも嫌な予感がする.......
「ん!」
その予感は的中した。
「待て待てオーガ。オレ達は『焼こうか』とは言ったが、『炎の竜巻で丸焦げにしようか』とは言ってないぞ!」
案の定、と言ってしまえば案の定だが、多分初めて肉を焼くオーガに火力の調整などできるはずがない。たちまち一直線にらせん状の炎、というよりも火炎が発生した。
「?」
「取り敢えずその炎をしまってくれ!
あ、そう言う事か。やけに焦ってると思ったら、結構
「ひ、とめる?」
「ああ。木を集めるのがめんどくさかったらリリス坊に燃やしてもらうから、な?」
シャトーに諭されたオーガがいそいそと炎を消した。今本音が出た気がしたが、聞かなかったことにしておこう。
「りりす、もやす?」
燃やさないけど焼くぞ。
「.......ああ。少し時間がかかるかもしれないが」
「な、じゃあ、頼むぜ、リリス坊」
仕方なく俺は魔法陣を展開し、そっと炎(と呼べる程度の火)を出した。肉を一本オーガに持たせ、そっと焼いていく。ジュっと音が聞こえ、脂が石に滴った。
「おお~!」
「やけた?」
まだ気が早い。腹を壊すからまだ食べるな。美味しくないし。
「中に火が通るまで焼くんだ。じっくり待たないと生焼けだから......」
少し火力を上げると、ジュウジュウと焼けだした。回転させ、薬草をまぶしながら焼いていると、オーガが鼻をスンスンと動かした。香ばしい香りが辺りに広がり、オーガのお腹が鳴った。
「.......昼食、食べたんだよな?」
「まあ、夕食ってことで」
シャトーに言われ空を見上げると、陽は傾きかけていた。
「なら、少し急がないと。ああ、オーガは手伝わなくていい」
事故が起こりそうだから。俺は魔法陣を数個展開し、術を駆使して陽が落ちる前には肉を焼き終えた。
「!!」
「いい匂いだな~」
焼きあがった肉を前に、オーガの尻尾がゆらゆらと揺れ、早く食べたい!、と言わんばかりにこちらをチラチラと振り返った。
取り敢えず畑作りの器具は片付けたし、素材になりそうなもの処理も終わった。毛皮はあとでいいとして、俺も腹が減った。
「食べるか? オーガ?」
「たべる!」
シャトーが持ってきたランタンの明かりの中、階段座った俺とオーガは焼肉にありつくことにした。
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