薬草と槍


「ところで、種はどうするんだ?」

「たね?」

 

 手ごろな石の上でサンドイッチを食べ終わった俺はふと疑問に思っていたことを聞いた。オーガの方は2人前程をまだモグモグとしていたが、ゴクン、と飲み込むと、シャトー(本)の方を向いた。


「たね?」

「ん?」

 

 いきなり話を振られて驚いたのか、種の存在を知らずに畑を作ったのか、忘れていたのか、シャトーは珍しくうーん、と考え、そのまま一輪車の方へと飛んで行った。


「ちょーと待ってろー……」

 

 多分、忘れてたんじゃないかと思う。植えるものが無いのにどうして畑づくりに賛成したのだろうか。というか、なぜ種を知らずに「畑は耕すもの」という事を知っていたんだ。シャトーあのお城の性格(?)ならそのまま地面に植えそうなんだが。


「あるにはあったぞ、種」

 

 しばらく一輪車の中を漁っていたシャトーがふよふよと戻ってきた。小さなバケツのような物の中には神のような物に包まれた黒や白の粒が入っていた。


「随分年季が入った.......いや、これは何の種だ?」

 

 本音が出かけたが、まあいいだろう。俺も多少の知識しかないが、全く見当がつかない。


 「それがわっかんないんだよ。倉庫の中から適当に漁ってきただけだからさ。大体行き倒れた人間からちょーと拝借しただけだから、食べられんものじゃないと思うがな!」

 

 行き倒れた人間.......移住者の事か。飢餓になると新しい開拓地も目指して移動するというから、その途中で行き倒れたか、オーガ最恐龍王ストレッチ逃れられない死に巻き込まれたんだな。後者だったらかなり可哀そうに。


「まあ、だったら食べられないものではないと思うが.......植えてみるか?」

「うえる!」

「物は試しだ。やってみようぜ!」

 

 食べられないものだと困るので俺はそこら辺の薬草の種か苗も植えておこうとしよう。


「.......俺は近くの薬草も植えるから..........蒔き方は分かるか?」

「おう!小さな穴をあけて..........3粒くらい植えるんだろ?」

「いれる!」

「ああ、じゃあ、すぐに帰るから、蒔いておいてもらっていいか?」

「任せとけって!」

「たね、まく!」


 やる気満々なのはありがたいが、オーガは巻き方を知らない可能性が高いな。シャトーがいれば大丈夫だと思うが..........。

 




「確かこの辺りに、あったはず」

 

 俺は城の敷地をでて少し進んだあたりの茂みで薬草を探していた。オーガが俺を下してからほんの僅かだったが、確かにこのあたりに食用の薬草があったはずだ。数分探すと、目当ての品が見つかった。


「あった」

 

 大きな木の根元に自生した薬草が見つかった。俺は持ってきたスコップを取り出すと、5株ほど根元から掘り出した。スペース的にあと2種類が限界だろう。いったん戻ってこれを植えるか。


「グルルルル..........」


 と、近くで聞き覚えのある声がした。オーガと会う前に麻痺させた奴らだろうか。初めて会った時も思ったのだが、こいつ、普通の動物とは違うようだ。見た目からして、恐らく魔獣、の類だろう。冒険家やハンターがこぞって狩りたがる獣だ。そして、この獣は俺たち医者にも貴重な素材をくれる。


「なんだ?やられたりなかったのか?」

 

 魔獣は数匹。鼻がいいと聞くから、麻痺させて城に近付かれてはまずい。倒すしかないようだ。


「グァオ!」

 

 一匹が駆けだしたことを切っ掛けに、魔獣が一斉に駆けだしてきた。俺は左手に薬草とスコップを持つと右手を構えた。


「『死の足音』」

 

 魔法陣が展開されて数秒も経たないうちに、魔獣の動きが止まった。止めされられた、言った方が正しいのかもしれない。今にも俺に飛び掛かりそうな魔獣たちの躰には、地面から飛び出した鋭い槍が刺さっていた。


「やれやれ.... 」

 

 俺が魔法陣を消すと、湯具に槍は消え息絶えた魔獣だけが残された。一撃だ。さすがオレの中での数少ない最強クラスに入る攻撃魔術だけある。 そもそも攻撃魔法自体が少ないのだが。


「やっぱり..........攻撃系のものを習得しておけばよかったな。」


 俺は血の匂いを消すための魔術を掛け、魔獣たちの亡骸を前にした。

 このまま放っておいてもいいが、取り敢えず素材になりそうなものは確保しておきたい。しかしナイフがない。それと、確かめたいことがもう一つあった。 





「おー、リリス坊。遅かった.... 」

「りりす..........?」

 

 種をとっくの昔に蒔き終え俺の帰りを待ってきたオーガとシャトーは俺(の後ろ)を見て言葉を失った。まあ、無理も無いだろう。


「薬草を取っていたら出会ってしまって..........まあ、仕方がなく」

 

 俺の後ろには5匹ほどの魔獣の死体をその辺で調達したツタでまとめて引っ張られていた。


「いや、それはいいんだ、それは。じゃなくてだなリリス坊。そいつらは.......」

「りりす、ひとりでたおした!? 」

 

 なるほど、そっちか。シャトー(今はスコップ)はほ~と、感心するように魔獣をまじまじと眺めた。オーガはと言うと、怪我はないかと言わんばかりに俺の体の周りをぐるぐると回りだした。


「リリス坊はこんな術も使えたんだなあ」

「攻撃系も少しは使えるんだ。ほんの、少しだが」

「まま、これだけ威力があれば十分だぜ。一撃だろう?」

「!.......ああ」

 見ただけ分かるんだな、長年ある城史上稀に見るじじいになると。


「ところでどうして持ち帰ってきたんだ?」

「ああ、それは.......」


 オーガに怪我はない、と伝え、薬草を植え終わったころ、シャトーが不思議そうに聞いてきた。



「俺は食べたことが無いのだが.......王族の食事では魔獣の肉が珍味として出させることもあるそうなんだ。素材を取ってからの話なるのだが..........これ、食べてみないか?」

 


 もちろん、焼いて。

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