シャベルと昼食


「ここなんかどうだ? リリス坊」

 

シャトーに案内されたのは南向きの平らな場所だった。さすがこの城本体だ。


「ああ。ここならうってつけだ。広さも丁度いい」

「よーし! じゃあそうしよう。入り口からも近いし、管理も大丈夫そうだろ!」

 

確かに城の正門から近い。雨が降ってもすぐに帰れるだろう。


「はたけ、ここつくる?」

「ああ。そうだぞオーガ」

「オーガ、なにする?」

 

 えーとな、俺が知っている限りだと、まず地面を耕して、土を柔らかくするらしい。


「なるほど。じゃあ、こいつだな」

 

シャトーが一輪車の中からそら、とシャベルを2本取り出した宙に浮かせた


「これで掘り返せばいいんじゃないか? 場所を決めて」

「そうしよう。大きさは..........」

 

 俺は一輪車の中から杭とロープを取り出し、適当に地面に埋めた。


「二人(?)だし、こんなもんじゃないか?」

「お、いいじゃないか!じゃあ、早速始めようぜ~」

「たがやす!」


 シャトーもやるのか?と思ったら一輪車からシャベルに意識を移したらしく、一輪車がガシャン、と地面についた。


「ちょっと..........雑過ぎないか?」

「まま、そんな堅いこと言うなよ~。これでも少ししか割ってないんだぜ!」

 

それ割れ物でもやるのか?と聞こうとしたら自白した。割ってるんかい。少しって、絶対10単位で割ってるよな。

「シャトー、いっぱいわる!」

 

ほら。龍王様は嘘吐かない。


「ま、耕そうぜ!早く終わらせてゆっくり休もうぜ!」

 

上手く話をそらしたシャベルシャトーがいそいそと地面を掘りだした。それに続いてオーガも見よう見まねで掘り始める。俺だけやらない訳にもいかないので、渋々掘り始めた。





「オーガつかれた..........」

 

 30分程経ったとき、最初にオーガが音を上げた。シャベルを放り出し、ぺしゃん、と地面に座り込んだ。

「おうおう、もう疲れたのか?オーガ」

 相変わらずシャベルだけが動き続けるという恐怖現象だがしっかりやっていたシャトーがオーガの元に向かった。


「まじゅつつかう..........?」

 

 そうだよな。今まで多分ほぼ魔術でやってきたもんな。というか、なんで今回に限って使わなかったんだ?

「まーまー、せっかく久しぶりの人間だぜ。たまには自分の手でやってみないか?」

 

 小声で言っているつもりらしいが、結構丸聞こえだ。なるほど、俺がいるから俺に合わせようとしてくれたらしいな。


 確かに魔術が使えると言えど、何でもかんでも術でやっているわけではない。寧ろやっていないことの方が多いくらいだ。

「うー……」

 やりたくない、と言わんばかりの顔でオーガがこちらを見てくる。まあ、確かに重労働だったと思うが..........


「オーガ、あと少しで完成するから、もう少しだけ付き合ってくれないか?」

 

 できるだけ視線を合わせ、優しくオーガに言うと、少し間があったが、そっとシャベルに手を伸ばした。


「..........やる」

「よし、えらいぞオーガ!耕すのはそろそろ大丈夫そうだから、畝を作ってくれ!簡単だからすぐできるぜ!」

「!」

 

 オーガの尻尾が元気を取り戻した。いそいそとシャベルシャトーも元へと向かい、シャトーの実演を眺め始めた。

 畝づくりはオーガとシャベルに任せて、オレは周りを囲むとしよう。確か、シャトーが持ってきた中に手ごろな石があったはずだ。





「完成だー!」

 

 太陽が真上まで登ったころ、ようやく畑が完成した。小さな、家庭菜園程度の畑。俺にとって初めて本格的に作った畑でもあり、オーガにとって初めて自分の力で作った畑でもあるだろう。


「いや~大変だったな。オーガもリリス坊もよく頑張ったぜ!」

「つかれた!」

「ここまで動いたのは久しぶりだな..........」

 

 正直俺も疲れた。普段は基本机に向かっていたから、力仕事なんて年に数回の大掃除ぐらいしかやっていなかったな。


「じゃ、きりもいいし、昼食にしよう!」

「ごはん!」

 

 どこから持ってきたのかシャトーが朝と同じ本を取り出し、オーガとキャッキャと選び始めた。


 しかしあの本、一体どのくらいの食事が載っているんだろうか。

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