二度寝と体操


 カーテンの隙間から朝日が差し込んでくる。今は、朝。鳥のさえずりは聞こえないが、気持ちのいい朝だ。


 ただ一つを除けば、何の変哲もない朝になったのだが。



「なんでオーガがここに居るんだ.......?」

 

 宣言通り自分で目を覚まし、起き上がろうとした俺の上に、幻獣族の生き残りにして最恐のドラゴン(今は子供の姿)がいた。


「ハア......動こうにも動けん.........」

 

ただ乗っているだけならいい。すぐに降りてもらうように伝えるだけだ。


「いや~悪いなリリス坊。これにはちょーーーっと理由があるんだ」

 

 あろうことか俺の上ですうすうと寝ているのだ。しかも幸せそうに。俺には起こすことができない。


「いやな、リリス坊。朝の3時まではベッドにいたんだ。それはオレが保証しよう」


おい保護者シャトー。問題はその後だ。何があったらこうなるんだ。


「え~とな、オーガはいつも4時くらいには起きるんだ」

 結構早いな。そんな時間に何やってるんだ?


「いつも誰かが森に入ってくるからな。それを見に行ってるんだ」

 

.........多分、それ、夜から出発した驚くべき愚か者冒険家だ。なんでも朝早いうちに向かえば寝込み襲えると言っておいて、自分たちも寝過ごして中途半端な時間につく奴らだ。


「ま、今日は3人だったぜ~。オーガが一瞬で塵にしてたけどな」

 

 多分そうなると思ってた。落ち着いたら、と言うかオーガが起きたら真っ先に魔術の威力制御から教えよう。


「それで? どうしてここに居るんだ?」

「それでな、てっきりリリス坊も起きてると思ったらしくてな、リリス坊の部屋に来たんだ。確か......4時半ぐらいか」

 

30分で討伐して帰って来たのか。まあ、つっこまないでおこう。


「そしたらリリス坊がまだ寝てるだろう?」

 ああ、その時間はまだ寝てた。俺の起床は6時ごろだ。


「だから、その、な。起きるまで待っていようと思ったらしくてな.......」

「眠ってしまった、という訳か」

「そういう事なんだ」


 ドラゴンでも二度寝するんだな.......。まあ、子供、らしいからな。


「.......起こしてもいいのか?」

「構わないぜ~」

 

そうか。俺はオーガの肩を軽く叩いた。


「オーガ、朝だぞ」

「.........」

「俺も起きたぞ」

「.........ん........?」

 

今、少し反応があったな。


「起きられないのだが、オーガ、起きてくれないか?」

「ん.........」

 

オーガの目がゆっくりと開いた。目をぱちぱちさせ周りも見回すと、大きな欠伸をした。


「りりす.........おきた......」

 

オーガは伸びをしながら俺の上から降り、ベッドの淵に座った。


「おお、オーガが起きたか~」

 

シャトーもどこへ行っていたのか鏡から声がした。


「オーガおきた!」

 

元気いっぱいだな。オーガは寝起きはいいのか。それとも、朝の冒険家討伐体操が効いているのか。


「いや~久しぶりにオーガ以外の人間がいるな~」

「ふたり!」

 

 オーガの尻尾が揺れている。やっぱり、寂しかったのだろうか。シャトーの口ぶりからして俺の前にも人間がいたらしいが、何分数学がバグっている城だ。「久しぶり」、といっても百年は前の話なんだろうな。


「さあ、リリス坊。顔でも洗ってきてくれ。あ、リリス坊の服がないな.........」

 

 そうだった。(精神的な)疲れのあまり上着だけ脱いでそのまま寝てしまったんだったな。あの荷物にも代わりが入っているわけじゃないし。


「オーガ、なんかあるか?」

 

シャトーがオーガに聞くと、オーガが俺の近くへと顔を寄せた。


「ん~……」

 

何かわからないことをつぶやくと、俺の服をちょい、と触った。


「ん!」

 

 オーガが手を離すと、そっくりそのままの俺の服が、1枚、2枚、3枚......と現れた。


「これでよし」

 

シャトーは満足げ鏡をガタガタと鳴らすと、オーガの方を向いて慌てた。


「待て待てオーガ、もういいい、もういいぞ」

 

俺もオーガの方を見ると、オーガの周りは20着はありそうなほどの服で覆われていた。


 .........さすがに多すぎやしないか。


「もう、いい?」

「ああ、もういいぞ」

「ん!」

 

途端に服はぴたりと止まった。これ、しばらく服に困らないぐらいあるんじゃないか?


「オーガ、ありがとう」

 礼を言って服を一枚取り出した。寸分たがわない俺の服。それがなん十着も。かなり奇妙な絵面なんだが。

 

「じゃあ、オレとオーガは外で待ってるからな~。オーガ、行くぞ」

「りりす、まってる!」

 オーガはトコトコと歩いていきドアを開け、外に出て行った。シャトーもこの部屋に意識はないらしく、声もしない。


「しかし、かなり緻密だな」

 通常この手の術を使うと、数が多くなるにつれて何かとぼろが出る。破れてい

たり、ほつれていたりするものだ。しかし、どの服を見てもその気配はない。


 これほど高度な術が使えるんだ。制御方法が習得できればもっといいと思うんだが.........



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