城と名前
「はいる!」
オーガに案内され、俺は今
獣人というのは、皆こんな場所に住んでいるのだろうか。だとしたら、かなり文明が進んでいることになるが。
「はいる?」
いつまでも立ち止まっていた俺を不審に思ったのか、オーガがくいくい、と服のすそを引っ張った。今までは尻尾に目がいって気付かなかったが、ぴょん、と立った髪の毛が頭上でゆらゆらと揺れていた。
「ああ、すまない。入ろう」
オーガが扉をゆっくりと押した。ギギーと言う音が響き扉が開くと、中にはだだっ広いエントランスと、どこかの劇場にありそうな広い階段がお目見えしていた。
「.........」
なんだこれ。スケールが
またもや動けなくなる俺の横をオーガはぴょんぴょんと階段を登った。
「お、オーガ。帰って来たのかー?」
どこからともなく声がした。オーガの家族だろうか。暗くてよく見えないが、どこにいるんだ?
「かえった!」
オーガが声に向かって答えた次の瞬間、ボオッっという音が聞こえ、薄暗かったエントランスに一斉に明かりが灯った。
魔術か?いや、魔術しかありえないか。だとしたら、相当な使い手だぞ。少なくとも、俺では敵わない。一体どんな人(?)なんだ。
オーガのように人間の姿をしているのか?それとも、狼の姿をしているのか....
「怪我はないかー?」
「にんげん、オーガなおした!」
「人間?......ああ、もしかして、そこの坊やか?」
坊やとは失礼な。これでも成人はしているのだが。
「....お初にお目にかかります。夜分に申し訳ありません」
ところで彼は俺の姿をどうやって見たのだろうか。声しかしないのだが。
俺がそんなことを考えていると、階段の上の銅像や燭台、皿が置かれた中の一つの壺が、浮いた。
「おーお、畏まらなくてもいいぜ。オーガが連れてきたんだろ?」
壺が、浮いた.........?
魔術か?魔術なのか??それとも、あれが本体なのか?
「えーと、あの?貴方は.... ?」
「こんなところじゃ何だ。オーガ、部屋まで連れてきてくれないか。広間だと豆粒にしか見えないからな」
無視されたのだが、俺の質問。
「くる!オーガのへや、いく!」
オーガがしっぽを振りながら俺の方を見た。わかった、ついて付いていけばいいんだな。
「ああ。分かった」
俺は尻尾を揺らしながら先導するオーガに付いていく。相変わらず分かりやすいな、この尻尾。俺と会ってからずっと揺れている。人間に助けられたことがそんなに嬉しいのか?人間に傷付けられたのに。
「ついた!ここ、オーガのへや!」
階段を三回まで上り、廊下をしばらく進んだところの一つの部屋の前でオーガが立ち止まった。階段はまだ上まで続いていたから、恐らく4階まではあるのだろうな。どんだけ広いんだこのお城。それに、ここに来るまで生き物の気配がなかった。オーガの家族はどこにいるんだ。3階までは飾りなのか?
オーガが中に入り、そのまま俺も続く。かなり広い部屋で、俺のいた王宮でいうと、王女の部屋ぐらいはあった。俺の部屋の何倍だろう。3人は寝られるんじゃないかというベッドと、壁に掛けられた鏡、少し大きめのタンス、あとはクローゼットなどが配置されていた。正面には大きな両開きの窓があり、大きな月が輝いていた。
オーガは入るとすぐにボフン、とベッドに飛び込んだ。俺は特に何もせず、立ちすくんでいると、鏡がガタガタと動いた。
「よく来たな、坊や。オーガの手当てをしてくれたんだろう?恩に着るぜ」
「それは、どうも.... 」
またあの声がした。
「名前は何て言うんだ?オーガ」
そいえば、まだ名乗ってなかったな。オーガも知らないはずだが。
「なまえ?」
まあ、そりゃそうなるか、オーガがきょとんとした顔でこちらを向いた。
「にんげん、なまえ?」
「リリスだ。リリス・フローレン」
「ほー、リリスか。よろしくな、リリスの坊や」
だから坊やじゃない。むしろ
「りりす!なまえ!りりす!」
オーガにも覚えてもらえたようだ。
「あの、貴方は?」
まだこの質問に答えてもらっていないぞ。それと今どこから話してるんだ?
「ああ、自己紹介がまだだったな。こっちはオーガって言うんだ。んで、オレのほうは...」
父親か?それとも、兄弟だろうか。
「まあ、このお城だ。う~~~ん、この城の意思、といったところだな」
お城? お城って、喋るのか? この規模になると、喋るのか? オーガも当然みたいな顔をしてるし、俺がおかしいのか? 固定概念に縛られ過ぎているのか?
「まあ、シャトー、とでも呼んでくれ。リリス坊」
坊やじゃない。地味に省略されたし。しかもなんか軽いな。
「あの....どうして俺は、坊やなんですか?一応、成人はしてるんですけど.... 」
俺が恐る恐る尋ねると、おし..シャトーは驚いた、と言うようにおどけた声を出した。
「オーガに比べればまだ坊やだぜ。......もしかして、オーガから聞いていないのか?」
オーガから? 何をだ? もしかして、俺より年上なのか?
「獣人は....見た目によらない、ということですか」
俺は獣人と会うのは初めてだから、そういう事なのかもしれない。しかし、帰って来たのはとんでもない答えだった。
「獣人?オーガは獣人なんてもんじゃないぜ」
「え?」
獣人でないならば、何だというのだろうか。オーガの方を見ると、ニコニコしながら言った。
「オーガ、どらごん!げんじゅうぞくの、おう!」
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