冒険者ギルドへ

 レヴィン達が目指す冒険者ギルドは、街の奥まった所にある。冒険者と言えば聞こえはいいが、冒険者にはプロもいれば、物盗りと大差ない素人もいる。そういったならず者と大差ない連中は、住民と何かとトラブルを起こしがちだ。

 そのため、ギルドは街の中心部から外れた場所に置かれていた。


 時間は夕方になり、遠征から帰ってきた冒険者たちでギルドの中は賑やかになっていた。彼らは酒の肴にするため、常に話のタネを探している。今日彼らが取り上げたのは、サラゴサ家の嫡男が組んだ、子供達ばかりの珍しいパーティのこと。

 それはつまり、レヴィンたちの事だった。


「ガキばっかり集めて遠足に行った連中、帰ってくると思う?」

「ガキが遺跡に行って帰ってこれるわけねえだろ」

「でも、レヴィンがついてったぜ」

「あのジジイが? じゃあ、何人かは戻ってくるかもな」

「一杯賭けるか? 俺は半分帰ってくると思う」

「半分以下に賭ける」


 半分以下に賭けた冒険者は、あざけりを含んだ口調で話し続ける。


「しかしレヴィンも落ちぶれたな。世間知らずの坊っちゃんと、ガキ供の世話か。ああいう冒険者にはなりたくねぇな……」

「遺跡荒らし、冒険者にもともと未来なんかねぇよ」

「ちげぇねぇ」


 実際、彼が言ったことは、真実を射ている。


 遺跡にある魔道具は、勝手に増えたりしない。

 盗れば盗るだけ、減っていく。そしてそれは、次第に探索の難易度が上がっていくことを意味する。そもそも、冒険者には先がないのだ。


 近ごろ冒険者の質が低くなり、荒っぽくなっているのは、それと無関係ではない。遺跡から苦労して魔道具を掘り出すより、後から横取りを狙うほうが、よっぽど簡単で安全だ。同業者を襲う冒険者も少なくない。

 

「しかし……あっちにもなりたくねぇからな」

「ん?」

「なんでも無ェ」


 いくら食い詰めたとしても、そんな獣以下のことまではしたくない。

 俺がそんな事を考えていると、何やら外が騒がしい。

 また面倒事を起こすやつが出たか?


「――? 何だありゃ?」


 ギルドの開け放たれた窓から、銀色の甲冑を着込んだ騎士が見える。

 しかし……何かがおかしい。縮尺、サイズ感? 大きさに現実感がない。


「一体何が起きてるんだ?」


 ★★★


 ――オレは子どもたちを連れ、ギルドの玄関についたのだが……。

 案の定、ギルドの外にいた冒険者に見つかって大騒ぎになった。手に持った槍なんかの得物をこっちに向ける奴まで出る始末だ。


「おいおい、こっちには子どもたちがいるのに、それが見えないのか?」

『大人気ですね』

「言うてる場合か。思った通りに面倒なことになったな」

『とにかく、退いてくださいとお願いしてみたらどうでしょう?』

「……うーん、それしか無いか」


「すまん! 前を開けてくれ!」


 オレがゴーレムを通して声を上げると、かえって騒ぎが大きくなってしまった。

 ギルドの中からも声に気づいた冒険者が出てきて、集まってくる。そいつらは、周りが武器を抜いているもんだから、それに合わせて武器を抜き始める。


(――こりゃいかん)


 キリがないと思った俺は、できるだけ優しく(?)強硬手段に出る。

 ギルドの扉の前を塞ぐ人だかりを、ゴーレムの手で押しのけることにしたのだ。


『前を通りますねー』

「ウワー!!」「ギャー!」


 手を平泳ぎみたいに動かして、立ちふさがった冒険者をひっくり返し、押しのけていく。ゴーレムの力の前には、重い甲冑を着込んだ人間でも敵わない。

 あっさりギルドの扉にたどりつけた。


『ほら、話せばわかってくれたじゃないですか』

「ゴーレムの常識では、力づくを話したっていうの? 怖いわ」

『これは肉体言語、身振り手振りによるコミュニケーションです』

「前向きすぎて前しか見えてねぇや」


 うーん、これはちょっと、いや、大分やりすぎた気がするなぁ?

 案の定、カンカンになったギルドマスターが出てきた。


「コレは一体何の騒ぎだ……げぇ!!」

「あ、どうもマチウスさん。今日の探索の報告に来ました」


 できるだけ丁寧に冒険者ギルドマスター、マチウスに語りかける。

 しかし、当然のことながら、ゴーレムを見た彼は激しく動揺している。


「ゲ、ゲゲゲ……!」

「ゲゲゲのゲルリッヒは怒って帰っちゃったので、代わりに報告に来ました」

「な……! それは本当か?」

「はい。あ、収穫は特になしで、遠征に行った全員が無事です。ゲルリッヒは勝手に帰ってしまったので、ギルドの規定により員数外となるので、全員無事。これで良いはずですよね」


 冒険者ギルドには、代わりのリーダーを決める規定がある。

 リーダーが死亡、または行方不明で連絡が取れなくなった時、冒険者としてもっともキャリアの長いものが代わりにリーダーとなるのだ。

 だからオレは、何も変なことは言っていない。


「そ、そうか。収穫なしというが……それは?」


 ひどく動揺したギルドマスターは、恐る恐るゴーレムを指差す。

 ですよね。


 ここで彼女を「魔道具」ということにすると、とても良くない。

 なぜなら、オレから彼女を取り上げる権利がギルドに生まれれしまう。


 彼女を取り上げられては、オレも困るが、彼女はもっと困るだろう。

 勢いに任せ、口からでまかせで煙に巻くことにした。


「魔道具じゃありません。えーと……彼女は遭難者です」

「そ、遭難者?」

『はい。遺跡の奥底で眠っていた所、彼がなき――』

「それ以上言わんで良い。とまあ、そういうわけでして」

「しゃ、喋った……にわかには信じられんが、本当に魔道具ではないのか?」


 うーん、マチウスのやつ疑り深いな。

 オレは彼女に胸甲を開かせると、ギルドマスターに姿を見せつける。


「ほら、中にはオレ以外、誰もいませんよ」

「本当だ……本当にこれ自体が喋っているのか」

「はい。彼女の名前は……なんていうんだ?」

『それを今聞きます? ガラテアです。よろしくレヴィン』

「おう、よろしくなガラテア」

「まるで魂があるとしか思えん……ゴーレムは魔道具ではなかったのか」

「みたいですよ。あまり詳しくは説明できないんですが――」


 マチウスの反応に何か引っかかるものを感じたが、オレはとにかく彼女が魔道具ではなく、ゴーレムの生き残りであり、オレにだけ協力していることを告げる。


 しっかし、送り出した子どもたちの無事を喜ぶどころか、魔道具のことしか気にしていないな、このギルドマスター。……なんていうか、本当にアレだな。


「――とまぁ、こういうわけです」

「ふむ……委細はわかった、ご苦労だった」


 これだもん。評判が悪いのもわかるよね。

 そして次の瞬間、俺は耳を疑い、ゴーレムごとひっくり返りそうになった。

 目に暗い光の宿ったマチウスが、ある言葉をオレに向けて放ったからだ。


「レヴィン、お前はもう出て行け!! 冒険者ギルドを追放する!!」


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