暴力に中る

むーが

暴力に中る

 こんなにも愛しているのに、愛してくれないんだ! と叫ばれても困る。確かに貴方と私は恋人の関係になった。だけどそれ以上を求めるのは今の自分には無理。


 事あるごとに殴ったり蹴ったりは当たり前、物を投げてくる時もある。おかげでこっちは痣だらけで強制的に長袖を着る羽目になっている。


 今は春だから良いが、夏になっても長袖を着ているなんてファッションに気を使っている女みたいになるじゃないか。いい加減にしてほしい。そこまでファッションには興味がない。


 交際する前にあった好感度もだだ下がりもいいところだ。むしろなんでこんな奴と付き合ってしまったんだという後悔の方が大きい。


 はぁ、現実逃避をしていても仕方がない。現状をなんとかしないと。


 冒頭に戻るが包丁を突き付けられて愛してほしいなんて言われた。無理なものは無理、と言えればどれだけ良いか。拒否したら刺されるだろうし、肯定したとしても妙に勘が鋭い奴のことだ嘘だとバレて刺されるだろう。


 つまりは何をしても刺される運命は変わらなそうだ。つい出そうになる溜息を止め敢えて包丁に近づいていく。


 奴は何故か動揺していた。金属が触れる感覚がある。これ以上進めば切れそうだ。なんとなく適当に誤魔化してみる。



「私は貴方を愛しているのにそんなこと言うのね」

「ふん、見え透いた嘘を言いやがって! そんなことをいう奴はこうだ!」



包丁を振りかぶってくるのが見えた。避けられるけど避けたら面倒なことになりそうなので動かない。


 肩に包丁が刺さって抜かれる。じくじくとした痛みが走った。逆の方の手で傷口を押さえる。血で手がベタベタする。予想より傷が深い。これは治るのに時間がかかりそうだ。



「なんで避けないんだよ!」



えっ何かまってちゃんなの? 今の状況じゃ受けろと言わんばっかりだったよ?



「避けてほしかったの?」

「んだよてめえ! ふざけてるのか! 殺してやる!」



私を突き倒して奴が近づいてくる。薄々こうなるんじゃないかと思っていた。お気に入りの大福もっと食べておけば良かったな。


 やたらとお腹を刺される。始めは痛くて仕方なかったが、もう分からなくなっていた。血の流し過ぎだろうか意識が朦朧としてくる。最後ってこんなにあっけないんだなと思いながら意識が遠のいていった。





 彼はどこかに逃げ、この部屋には腹をめった刺しにされてぐちゃぐちゃにされた彼女の死体が残されていた。

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暴力に中る むーが @mu-ga

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