探偵 角田剛夢の事件簿 ③

かがわ けん

 

 依頼者の家の前へ到着する。電話で聞いた通り公園の真ん前だ。


「……ちゃ、……ちゃ」


 音の方へと視線を送る。そこにベンチコートを着た女が立っており、俯き加減でぶつぶつと呟いていた。

 関わっても碌なことはない。俺は依頼者の家を訪問した。



「いくら金欠とは言え流石にキツイな」

 俺は深夜の公園にいる。三月初旬の深夜はゲレンデと変わらない。防寒対策をしても凍えるように寒かった。


 依頼は深夜の公園の調査だった。最近公園で小動物が殺される事件が頻出しているらしい。しかも夜中に公園から奇声が上がる日もある。警察も動いているが、深夜に張り付くほどの対応はしてくれない。取り敢えず三日間深夜の公園を調査して欲しいとの内容だった。



 依頼の三日が過ぎた。結局この三日間は何の異変もなかった。

 時間は朝七時。非常識ではあるが、出直すのは億劫だ。俺は依頼者宅へ向かった。


 インターホンを押すも反応がない。だが中からテレビの音はしている。灯りもついているし在宅のはずだ。試しにドアノブに手を掛けると鍵は掛かっていない。俺はドアを開けた。


 鼻を突く異臭が漂う。生臭く吐き気を催す臭いだ。明らかな異変に俺は躊躇なく中へと進んで行った。


 リビングからテレビの音が聞こえる。先ずはここだとドアを開いた。


 カウンターキッチンに女が立っている。だが先日会ったこの家の妻ではない。

 一心不乱に料理をしており俺には気付いていないようだ。俺は一気にその女と距離を詰めた。


「ぐちゃぐちゃ、ぐちゃぐちゃ、ハンバーグ。私の人生ぐっちゃぐちゃ」

 女は歌を歌いながら、ボウルの中の肉を手で捏ねている。

 彼女のエプロンは血まみれだった。


「おい、お前は誰だ。ここで何をしている」

「ぐちゃぐちゃ、ぐちゃぐちゃ、ハンバーグ。ミンチでぐっちゃぐちゃ」

「いい加減にしろ」

「ぐちゃぐちゃ、ぐちゃぐちゃ、ハンバーグ。愛する彼もぐっちゃぐちゃ」

 

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探偵 角田剛夢の事件簿 ③ かがわ けん @kagawaken0804

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