第7話 ムトハ


「ねぇねぇ」


「起きて~」


「凍らせすぎたのかな」


「あ、起きた」


「……ミ、ロク…」


ぼやけた視界が元に戻り、よく見ると、逆さまでしゃべりかけてくる白髪ショートカットで金色の輝くイヤリングをした女がいた。


「あんた誰…?」


「誰でしょう?ミロクではないことは確かだよねー」


「あんた、なんで逆さまなんだ」


「ハハハw、君、面白いこと言うね」


「今の状態わかってる?」


状態?何を言ってるんだ。よく周りを見ると扉のあった森ではなくなっていた。


そして、どうやら氷の鎖で巻きつけられ逆さまに宙づりにされているようだった。


そうか、俺は捕まってしまったのか、ミロクに鍵にされそうになったあたりから記憶があやふやだ。この人は看守とかなのだろうか。


いや、そんなことはどうでもいい。


「俺と一緒にいたやつはどうなった?」


「君がミロクと寝ぼけて言っていたやつかい?」


俺はこくりと頷く。


「残念だけど、そこには君しかいなかったんだ」


「そう、か」


「ミロクは君の何なのかな?」


「地獄を教えてやりたい相手」


そう言うと、彼女は満足したような顔をした。


「君は一応、罪人だ。地獄からは逃れられない。ミロクに復讐する機会もないだろうね」


「しかし、地獄行き以外の道もある」


彼女の言葉に俺は驚いた。地獄以外?どういうことだ。


「実はね、私はミロクを追って奈落の国の地獄まで来たんだよ」


「現在、黄泉の国では地獄で現れたような黒い化け物ゴーストがいろいろなところで出現し被害を出している」


「人為的に起こしているものだとはわかったけれど、犯人の正体や、事件の原因の手掛かり一つ、つかめずにいたんだ」


「それで、地獄でも似たような事件があったと聞いて地獄までわざわざ来たわけさ」


「それで来たら来たらで、地獄にゴーストがわんさか現れ、その原因と思われる脱獄囚を追ったら君を見つけたんだ」


「ミロクがあの黒い化け物の原因?」


まったく理解できない。ミロクは、あれに襲われそうになっていたというのにあれも演技だったのか。


「その様子だと、本当にミロクについて知らないんだね」


「本題に戻るけど、君には3つの道がある」


「地獄に戻るか、ミロクを捕まえるため協力するか」


言いずらいのか少し黙り込んだ。


「最後は?」


「消えて亡くなるか」


消えてなくなるか…か。


「普通に死にたい。こんな世界来たくなかった」


俺はあのまま、命を賭けて人を助けれたと思って死にたかった。


「君なんで地獄にいたんだい?」


少し面白そうに聞いてきた。


「電車に轢かれそうになってる人を助けようとして死んだ」


「だけど、助けれてなくて俺が殺してしまったことになったらしい」


「そっか、それで地獄にね…」


彼女はしばらく黙って俺を見つめ、微笑みかけた。


「普通に死にたいだっけ?」


「君は地獄から抜け出した後、死にたかったのかい?」


「君はもうあっちの世界では死んでいるけれど、この世界では生きている」


「君はなんで死ぬかもしれない時に動けたと思う?」


「人を助けることが当然だから?人を助けることが気持ちがいいから?それだけの理由なんかじゃない。」


「なんで命を捨て助けたんだい?」


なんで、なんでなのか。そんなものわかろうとしても死んでいる。


「君はこれからその理由を知ることができる」


彼女はそう言うと手を差し出してきた。


俺を見つめて言ってきた。


「君はこれからの人生をどうしたい?」


俺は気づいたらその彼女の手を取っていた。




「そういえば、自己紹介がまだだったね」


「君、名前は?」


普通聞く前に自分の名前を名乗るのが普通な気がするが、


「俺はルクト」


「よろしく!ルクト」


元気にそう言うと、思いっきり肩を組んできた。


「私のことはお姉ちゃんと呼んでいいよ」


「俺にとってこの世界にお姉ちゃんと呼べる存在は一人だけだ」


「えー可愛くないねー」


「で、あんたの名前は?」


「ムトハ」

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