第6話 入口

「無茶したね」


気づくと、俺はミロクに担がれ、森の中を駆けていた。


化け物の姿はなく、なんとか逃げられたらしい。


「魂かけると言ったからな」


「さあ、着いたよ」


「これが…」


そこは森の中だというのに木がまったく生えておらず、地面が黒く汚れており、ミロクに扉と言われたものは、扉というより大きな歯のない悪魔の口のように見えた。


「この扉を開くには鍵が必要でね」


「鍵?」


「今、用意するよ」


するとミロクは、俺の肩を叩いた。


「え?」


気づいたら、体中を鎖で巻かれていた。


「おいなんだこれ?!」


「これは一体どういう」


突然のことで頭が回らない。理解が追い付かなかった。


「地獄から逃げるためには、色々な道がある」


「それらの道はどれも大きな代償が必要になっている」


「その一つが、この信頼の扉。扉を開けるには、深く信頼関係があり、命を賭けれるほどの友人を鍵にしなければいけない」


「?!」


「…お前どうして…俺を鍵にするために…ここまで…」


「なんで、なんでだよミロク!!」


「こんなことしなくても、一緒に協力すればどこへでも行けるだろ!」


「そうだね、そうかもしれない」


「けれどね。ちょうどいいと思ったんだ」


「君、とっても死にたそうな顔してた」


それは、ここに来てから一番見たくない笑顔だった。


俺は言葉に詰まった。まるで心臓が凍りつくような衝撃が胸を襲い、口を開けても出てくるのは無音の絶句だけだった。


ミロクの瞳が彼の真意を告げるかのように、どす黒く輝いていたが、それを理解することなどできず、ただ彼の行動に絶望という言葉以上の何かを感じていた。


「本当の地獄とは、何かに気づけたかな?」


俺はこのまま、ここで鍵にされる。ここは、地獄だった。


お前といるときは、そのことを忘れていたのに、またなのか、また、また、もう暗闇しか見えなくなった。


「さて、準備を…ん?」


「ルクトの体から黒い煙?」


「コロ…シテヤル」


「ん」


「コロス」


バキンという音とともに鎖が切れた。


「えーまじか」


ルクトの体は黒い煙に囲まれて化け物じみていっていた。


「これは、やばいな」


このあたり、木が燃えたり、枯れ、腐り始めているのを見てミロクはこの場所からの逃亡を選んだ。


「まあ、お遊びはこの辺にして、また会おうぜ。ルクト」


「UUUGGAAAAAA!!!!」


もう前も何も見えない、全部、全部壊れろ、只々、この地獄が終わるまで。





「やれやれ、大変なことになってんじゃん」


目の前にいる化け物、最近起きている事件のそれと少し似ていた。


ムトハはある者を追って地獄まで来ていた。


「九度目の人災の再来かな、これゃ?」


今まで見てきた怪物の中でも、とんでもなく異質、普通じゃない憎しみと悲しみを持っている。


こいつ一人で地獄を崩壊させてしまう。


「早めに見つけれて良かったよ」


「お凍りな」


ムトハは感情を抑え、ルクトを優しく抱きしめ、凍らせた。






「あーあ、あとちょっとだったのに」


「この氷の威力、執行人ムトハか」


久々に見たが、また強くなっている。


「彼女もしつこいな、まったく」


しかし、ルクトを預けるなら、彼女以外いないだろう。


ゴースト(黒い化け物)もだいたい集まってきた。


「行こうか」


ゴーストに乗り、地獄をあとにする。

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