第5話 脱獄②

街から離れ、どうにか地獄から出ることのできる扉があると言う森の中まで看守から逃げていた。


「あと少しだよルクト!」


「ああ!」


あともう少し、あと少しでこの地獄から出れる。


「止まって!!」


突然の静止に驚き、前をよく見ると、先ほど店で見た黒い化け物よりひとまわり小さく、熊ぐらいのサイズの黒い化け物がいた。


「他にもいたのか」


「遠回りするしかない?」


「いや、さっきの看守に追いつかれる可能がある」


俺は、じっと化け物を見た。正直勝てる気がしない。けれど、進む以外ない。


「やろう」


「教えたことの実践だね」


俺は心を落ち着かせ、倒すイメージを固める。


ミロクが黒い鎖を創造する。


ミロクとの戦いの時の作戦を思い返す。


「敵に遭遇して戦うことになったら、僕が敵を止める。そしたら、一番ダメージを与えられると思うものをイメージしてぶつけてくれ」


ミロクは先行して化け物に向かい、黒い鎖を使いすばやい動きで化け物を拘束した。


化け物は驚き、拘束を解こうと鎖が今にも壊れそうなぐらい暴れる。


俺が一番ダメージを与えられると思うもの、それは。


俺は、創造したものを持ち、化け物に向かって走り出す。


「ザン!!」


その一撃が空気を裂き、剣が力強く振り下ろされる音が響いた。


化け物の姿がゆっくりと二つに分かれた。


剣の刃が容赦なく物体を真っ二つに切り裂いた瞬間、武器としての鋭さが全うに発揮された。


その残酷ながらも美しい瞬間、魂の闘志が宿った剣が勝利の証となった。


「ハアハア」


「すごいじゃんルクト!」


「まさか真っ二つになるとは、」


「イメージした通りに体が動いたろ」


「うん。頭で考えた動きがそのままできた」


この世界はイメージの世界とは言っていたが、生きていたころではありえないイメージ通りの動きができた。


いける、いけるぞ。このままこの調子なら、地獄から出れ、


「やはり、普通の囚人ではないな」


突然、威圧を込められた声が、俺たちの頭上から聞こえてきた。


「この声は、あの看守!?」


「もう追いついたのか、あの化け物をどうやって」


驚いている場合ではない。勝つイメージを考えろ。勝つイメージ、勝つイメージ。


「逃げろ!ルクト!!」


「え?!…」


ミロクが大きな声を出した瞬間、看守は既に俺の目の前にいた。


は?無理、だろ、考える暇もなく、顔の前には長棒が突如として姿を現した。


ぐしゃ!!


「グハ!」


しかし、それをミロクがかばった。ミロクはかばったことにより、もろに攻撃を受け、吹き飛んだ。


「ミロク?!」


「ほう、今のをくらって粉々にならないとは」


「チ、くそが」


看守はミロクを踏みつぶしながら観察していた。


「ふむ、お前どこかで、噂を聞いたような」


「まあいい、次は魂まで粉々にしてやる」


まずいまずいどうするどうする、このままじゃ、このままじゃ、勝つイメージ、勝つイメージを…


体が動かない、どうすれば、どうやって届く、あんな化け物に、勝てるわけがない。


しかし、どうすればいいのか葛藤している時、突然黒い化け物が津波のように現れ看守を襲った。


その化け物の出現により、ルクトの心には恐怖と混乱が入り混じった感情が渦巻いた。彼は立ち尽くす間もなく、激しい戦闘の渦に巻き込まれることになった。


「しつこすぎるぞ!」


看守の声がその場に響く中、看守は迫りくる化け物に立ち向かおうとするものの、その大きさと力に押し潰されそうになっていた。


「こいつさっきのやつよりも強い?!」


化け物の巨大な腕が放たれ、その数々の手が看守を捕らえようとしていた。看守は機敏に身をかわすが、やがてその腕の攻撃に対応しきれず、捕まってしまった。


「くそが、せめて、道ずれだ」


看守は必死にもがきながら、取り込まれる寸前で倒れていたミロクを掴む。ミロクは無理やり引っ張られ、化け物に巻き込まれそうになっていく。


「ミロク!!」


また、あの時みたいだ。


あの時、あの時は、俺は死ぬかもしれないとわかっていて助けに動いた。


あれは、怖いとかそういうのじゃなかった。


後悔しないために動いた。


なのにまた死んだあとに後悔するのは、あのときの行動が意味のないものになる。


助けられず死んだら無意味だったのかもしれない。


そうかもしれない。


でも、ここはある。


死んでも意味がないわけじゃなかった。


あの時は届かなかったけれど、今なら、ここなら、届く!!


もう後悔はいらない!!!


そして、俺は走り出した。


そこには、今にも化け物に取り込まれている看守に力強く掴まれたミロクがいた。


俺は、剣を創造し、化け物の手を押しのけ、化け物の中心に入った。体中に化け物の攻撃を浴びる。


もう看守の腕以外を取り込みミロクを吸収するまであと少しのところまで近づいていた。


全身が悲鳴をあげ、左腕も片足ももうない。


けれど、俺は止まらなかった。


「はああああああああああああああ!!!!」


ザシュ!!


すべてを込めて、ミロクを掴む看守の腕を切り落とした。






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