第4話 脱獄①

ここは、静かで落ち着ける場所だ。


この水難の罰は、人の悲鳴も何も聞こえず、流されるままでいられるのが良いところだ。


ミロクは、日々を退屈に過ごしていた。しかし、今はワクワクしている。この止まらない感情は、この場所でも止まる気配がしなかった。


「きっと面白いことになるね」


ミロクはこの地獄から脱獄するため、動き出す。



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ここは、相変わらず落ち着けるような場所じゃない。


この玩具の罰は、人の悲鳴と鬼の汚い笑い声が常に聞こえてくる。


早く、早く逃げ出したい気持ちを抑え、作戦を思い出す。作戦は、玩具の罰の鬼の隙を見て逃げ出し、この広場を囲う森を抜けて壁を越え、地獄から出ることのできる扉に向かうことだ。


玩具の罰が行われているこの場所は、荒野であり、その周りを森で囲んだようなところである。そしてその先にさらに覆うように壁があるという。壁まで行ければ逃げきれるとミロクは言っていたけど、どう逃げ出そうか…鬼もそこらじゅうにいるため逃げる機会など皆無だった。


ゴゴゴゴゴゴゴ……………


突然、地面が揺れだした。


「な、なんだ、なんだ」


ドゴオオオオオオオオオオオオーーーーーー!!!!


大量の水が荒野の全体のいたるところの地面から噴き出した。


先ほどから聞こえていた悲鳴は、鬼の慌てた声に変わった。


「ハハハ!!!見てみなよルクト!あの鬼たちの慌てふためきようを」


「ミロク?!」


笑いながらミロクが噴水の上に浮かんでいた。


「これをミロクが?」


こんな大量の水どこから持ってきたのか理解がまるで追い付かない。


「実はね、水難の罰はこの玩具の罰の下で行われていたんだよ」


「下?!じゃあこの水は、」


「そう、水難の罰の水さ」


「さて、脱獄の開演としては十分かな、行こうルクト!!」


「おう!!」





それから混乱に乗じて、森まで逃げることに成功し、壁の門まで辿り着いた。



「ミロクこれって」


「ああ、これは、、どういうことだ」


門はなぜか荒らされ、門番も誰一人おらず、門が開きっぱなしだった。


「まあ、好都合だね。今の内に出ちゃおう」


俺ら以外にも脱獄しようとしている奴らがいるのだろうか。

門番が誰もいないというのも不自然だった。


深くは考えずに、門を抜けその先に向かった。少し走り続けると、町にでた。






俺は最近入ったばかりの看守で、今、目の前で起きている光景を見るのは初めてだった。


これは、俺が看守になったばかりだから、見たことがない光景などではないと信じたい。


ここは地獄だったはずだ。


地獄の光景なら何度も見たが、今まで見ていた光景は、看守側の光景に過ぎなかったと今実感した。


地獄を味わう側の光景、これが目の前にあった。


玩具の罰が行われている荒野に突然地震が起きたと思った矢先、いたるところから大量の水が噴き出し、そこから沢山の黒い化け物が出てきた。


黒い化け物は、ヘドロのような質感で、大きさはさまざま、形もさまざま、地獄でもなかなか見ないおぞましさがあった。


化け物は、囚人や、鬼、看守までも食い散らかしていた。


「先輩!なんなんですあの黒いのは?!」


「知らん、だが、まさかとは思うが、黄泉の国に現れるというゴーストか?!なぜここに?!」


「ゴースト?!なんですかそれ??」


「細かいことは俺も知らん。来るぞ!絶対に地獄から出すな!!」







「おやっさん!もつ鍋~釜茹で地獄風~と、激辛あげ、鬼コーラで!」


「あいよ」


俺たちは、地獄の外にある町に着き、ミロクに促されるまま(無理矢理)、おいしそうな匂いがしたお店に入っていた。


「ミロク、こんなにのんびりしてていいのか?俺ら脱獄してる途中なんだぞ」


「心配しなくても大丈夫だよ。外にいるよりはましさ。」


「それに、門が破られていたのは、少し違和感だ。ここで早く動くのは危険だし、情報を集めないとね」


「はいお待ちー、もつ鍋~釜茹で地獄風~と、激辛あげ、鬼コーラ!厚切りステーキはおまけだよ」


厚切りステーキがおまけだと?!脱獄中じゃなかったら、一生リーピートする店に決定なのに。いや追われてて時間がないかもしれないのこんな厚切りステーキだなんて、まったく、まったく、美味すぎる!!厚切りなのに一瞬で口の中で溶け、肉の旨味がダイレクトに魂に響く、これはまさか、あの”おいしくなあれ”効果か??


「おやっさん、なんか騒ぎとかあったの?」


「んん、ああ大変大変、地獄の門が破壊されたってね。今のところは町で何か起きてはいないけど、聞いた話によると、大きな黒い手が門を破壊しただとか、看守さんたちも何故かいないし」


「へー怖いねまったく」


「お客さんたちも今日は外にいないですぐ食べてお帰りな」


「あ~い」


「ミロク黒い手だって」


「ああ、まったく何が起こってるんだってね」


ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガアアアン!!!!!


「は?」


食事を楽しもうと思っていた矢先、テーブルの目の前のおやっさんがいた厨房に大きな黒い物体が衝突してきた。


厨房だった場所は、黒い物体に潰され、跡形もなくなっていた。


「まったく何が起こってるんだって」


ミロクが呟く中、俺たちは黒い物体を注視していると、


「こいつ動いているぞ」


俺がそう言うと、黒い物体は不気味な動きを見せ体中から大量の手を出し始めた。


「逃げるよルクト!この騒ぎだと看守が寄って来る」


俺たちは、不気味な黒い物体の正体を掴むことなく、その謎めいた存在を背にして店を後にしようとしたとき、


「看守が寄って来るとなにか不都合があんのかあぁ?」


空気が一瞬で凍りつく。


俺たちの目の前には痛めつけるためのものと見られる、鋭利なものがたくさん付いた長棒を持った看守が睨みつけていた。


「お前ら、人を殺したことがあるな。魂の色からわかる。」


看守の冷徹な声が響き渡る中、罪人という肩書を背負ったまま、逃れられない運命に立ち向かうこととなった。


「ルクト、どうしよっか?」


ミロクの声が耳元で囁かれる。彼の目には決意が宿っていた。


「俺たちは逃げるしかない。」


俺の言葉と共に、ミロクも頷いた。しかし、その前に立ちはだかるのは地獄の壁のような看守だ。俺たちの逃走は容易ではない。


そのとき、予期せぬ救いの手が差し伸べられた。


突如として、黒い物体が看守に襲いかかったのだ。


「こいつは!?」


看守は混乱し、その隙を突いて俺たちは逃げることができた。


黒い物体が放った混乱の中、俺たちは走った。


「ミロク、あの黒い奴は何だったんだ?」


ルクトが息を切らしながら尋ねる。ミロクもまたその答えを知りたいと思っている顔をした。


「わからない。でも、俺たちは今、生き延びるしかないんだ。」


俺たちは不気味な黒い物体の正体を掴むことなく、その謎めいた存在を背にして店を後にした。


その場に心に引っかかるものがあったが、俺たちは地獄から這い上がることのできる扉を求めて走り始めた。


路地裏を抜け、街の喧騒から離れるにつれ、不安と期待が入り混じった気持ちが心を支配した。


扉への探求心は次第に強まっていった。未知の可能性が待ち受ける先にあると信じ、歩みを進める度に足元の影がより深くなる感覚がした。


その扉がどのような未知の世界を開くのか、そしてそこで何が待ち受けているのか。不安と興奮が入り混じる中、俺たちは決して引き返さない覚悟で、扉へと近づいていった。






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