思い出の手捏ねハンバーグ

黒片大豆

「挽き肉が安いわ……今日はハンバーグね!」

 ぐちゃっ、ぐちゃっ。

 ぐちゃっ、ぐちゃっ。


 挽き肉を捏ねるたび私は、元カレのことを思い出す。


 元カレは非常に浮気癖が強く、またギャンブル依存症だった。本人は仕事もせず、すぐに私にお金をせびってきたし、そのくせ体も求められた。


 私も私で、元カレに依存してた。元カレに必要とされることが嬉しかったが、大人になるにつれて次第に疑問を感じ始めた。

 しかし、一度染み付いた依存を断ち切るのは難しい。


 困り果てた私は、叔父を頼った。

 叔父は郊外で、特殊な産廃処理業を営んでいた。不要な家畜を処理する……いわゆる屠殺だ。叔父の工場は、そういった処理を行える大型機械を所有していた。


「肉にもならない家畜は、この機械で骨ごと砕いて、ぐちょぐちょにして、最後は肥料に加工するんだ」


 私は、元カレを巧妙に誑かし、夜も更けたころ、叔父の工場に連れていったのだった。



 ぬちょ、ぬちょ。

 ぬちょ、ぬちょ。


 先に塩を入れると、挽き肉に粘りが出て、焼き上がりが肉肉しくなる。私は、飴色玉葱、パン粉、卵、そしてナツメグを少々。挽き肉に加えてさらに捏ねた。

 小判型に整形し、丁寧に空気を抜く。油をひき熱したフライパンにそれを置いた。大中小と、3つの肉塊が並んだ。


「おかあさーん、ご飯まだー?」

「もうちょっとよー」

 5歳になる息子が夕飯を催促してきた。台所に顔をひょっこり出してきて、屈託の無い笑顔を私に向けていた。


 すると丁度そのタイミングで、ガチャリ、と玄関の鍵が開き、

「ただいまー! お、今日はハンバーグか!」

 旦那が帰ってきた。



 旦那は、叔父の工場で働いている。

 私が無理を言って、叔父に直談判したのだ。

 夜遅くに二人で尋ねてきたのを見て、叔父は、二つ返事で了承してくれた。


 そして旦那は、晴れて仕事に就くことができた。昔はヤンチャしていたが、今年で勤続6年目を迎えた今や、職場では無くては成らない存在だと言う。

 決して高い給与ではないが、家族三人を十分養え、幸せに暮らせている。


「いただきまーす!」

 旦那と息子が美味しそうに頬張る、私謹製の手ごねハンバーグ。旦那に初めてご馳走した、思い出の手料理だ。

 二人の幸せな笑顔を眺めながら、私もハンバーグを頂く。しっかりした肉質感と共に、今あるこの幸せを、じっくり噛み締めた。




 ハンバーグを作るたび私は、機械から出てきた『元カレ』のことを、思い出すのだった。

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