ぐちゃぐちゃ料理のフルコース

とろり。

ぐちゃぐちゃ料理のフルコース


 目の前にはぐちゃぐちゃ料理のフルコース。気味の悪い色合いに食欲が失せる。


「冷蔵庫にあるもので作ってみたの、どう?」


 どう? と言われても……。箸を持つ手がプルプルと震える。


「食べないとだめ?」

「もちろん」


☆時を戻そう☆


 俺の嫁は顔はいまいちだが性格は良い、と思う。なぜこんなにできた嫁が俺のところに、と疑問を抱いていたわけだが、結婚して1ヶ月後にその理由が分かった。


「今日もスーパーの惣菜か?」

 嫁は「安いから」と返事をする。

「料理はしないのか?」

 嫁は「片付けが面倒。私は忙しいの」と返事をする。


 毎日近所のスーパーの惣菜を食べながら自分自身に問いかける。そして、たどり着いた答えが「俺の嫁は料理ができない」ということだ。



「なあ、お前の手料理が食べたいんだが。毎日惣菜ばっかりじゃ飽きる。たまには時間を見つけて料理を作ってくれないか?」

「え? い、いやよ」

 俺はおだてる作戦にでる。

「料理は慣れてれば楽。お前は万能なんだから、料理くらいちょろいちょろい。たとえまずくても俺が全部食ってやる」

「わ、わかったわ……」



☆時を元に戻そう☆


「たとえまずくても俺が全部食ってやるって言ったよね?」

「あ、ああ、だがこれは……」

「いいから、食べてよ、ね?」

 殺す気か? 保険金なんてたいそうな額掛けてねえぞ。

「いいから、ね?」

 笑顔でこちらを見る。悪気はないのだろう……。

 悪いのはむしろ俺の方だ。手料理が食べたいと言ったばかりに……。


 仕方なく箸を口に運んだ。


――

――――

――――――

――――――

――――

――


「う……」

 嫁が俺の顔をのぞく。

「う……」

「う?」

「うまい!!!!!!」

 このグロテスクな料理がなぜ……。ああ、神様、料理は見た目が大事なんじゃないんですか。

 その後、嫁のぐちゃぐちゃ料理フルコースはしばらく続いた。



 嫁は味付けのセンスはあるが、見た目を彩るセンスに欠ける。やっぱり、もう……。


「化粧って大事だよね」

 その言葉がすっぴんの嫁の逆鱗に触れたようで、「お前の顔もぐちゃぐちゃにしてやんぞ」と返された。目がマジだったので俺は沈黙した。


 スープに視線を落とすと、整っていない顔が映る。スプーンを入れるとぐちゃっと顔がさらに歪んだ。



 離婚したのはその数日後のことだ。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ぐちゃぐちゃ料理のフルコース とろり。 @towanosakura

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ