『酒月の夜』
準備を整えたあと、私は
私と空栖と冬籠は、幼い頃に同じ
「お前たち、そろそろ身を固めたらどうだ」と、空栖が言った。「私は巫女だから、結婚は出来ん。だがお前たちはただの男だろう。嫁を持て」「酒を飲んで結婚の話をするとは、まるで老人のようだ」冬籠が呆れたように言う。「俺にはお前が
「もつ煮が食いたいなぁ」空栖はふらっと立ち上がり、ふらふらと部屋を出た。勝手へ行ったようだった。「おい零士、もつ煮が食べたいぞ。もつはあるか」「ない」「もつ煮が食べたいなぁ」「あったとして、今から煮ても大した味にはならんだろう」「どうしても食べたい」「買ってくれば良いだろう」「巫女は金がない」「
冬籠が
「もつ煮だぞおう」空栖は取っ手のついた
一升瓶を二本空にして、私と冬籠は蝮酒はちびちびと飲み進めていた。「生きることは楽しいか」冬籠が尋ねた。空栖はもうほとんど酔っていて、にやけながらうつらうつらとしていた。「考えたことがないな」「こんな日には、俺は考える。生きることは楽しいのかどうか」「そりゃあ、今こうして酒を飲んで、美味いもんを食っているのは楽しい」「それでいいのかもしれんな」冬籠はしみじみと言う。「姉が死んでからというもの、俺の人生は
「お前はいまだに、色んな女と関係を持っているようだ」私たちはぬるい蝮酒を飲みながら、こちらもぬるくなったもつ煮をつまんでいた。「そうだな」「俺は別に、お前の女癖の悪さを、
「失われたものと、誰かのものになったものでは、ふんぎりの付き方が違う」冬籠は言った。「姉さんは、失われた」「そうだな」「誰のものにもならずだ」「ああ」春未は
春未が埋められているのは、『
「さて、帰って続きをしよう」空栖が言う。多少酔いが覚めているようだった。「しかし酒はもうほとんど終わっているぞ」「なんだ、御神酒はどうした」「お前が寝たあと、ほとんど飲んだよ」「そんなら帰り道に買って行けば良かろう」空栖は冬籠の腕を引き、「酒屋まで頼むぞ」と言いながら、また背中に乗った。「このまま木哭寺まで連れて行ってやろうか」「いや冬籠、それはやめておけ」「どうしてだ」「お前があの階段を上る頃には、酒月が終わるぞ」「何を言ってるんだ。あそこの階段は、たったの千段ぽっちだろう」「いや」私はついに、この罪を白状しなければならないことを悟った。「実は、そうだな。お前には黙っていたんだが、すまない。あそこを上るのが疲れるもんだから、実は一万段ほど、お前に貸しをつけている」「
もし本当に私が春未を愛していたのなら、
春未も私を愛してくれていたなら、
最期の願いくらいは聞いてやるべきなんじゃないか。
それを真面目な頭で、私は考えるようになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます