『木哭寺の刀研ぎ』
鬼を殺してしまったから『
私が
私が嫌いなのは腐った果実と『
階段を経て
空栖は歳を取らない。まだ容姿が十四、五のままである。もっとも空栖は当時、実際に十四、五の頃から少し大人びていたので、見ようによっては十八、九の女に見えないことはない。
「そう言えば、
「死んだよ」こともなげに空栖は言う。
「死んだか」
「男と
「馬鹿な」
「そう思うだろう。しかし母君は恋愛に
巫女は処女を失うと十日で死ぬ。きっと
「ということは、今は一人か」
「そうだ」
「跡継ぎはどうする」
「子どもを産む気はまだないな」
「そうは言っても、もう良い歳だ」
「死ぬまでには長すぎる」
百枚はあろうかという和紙で、空栖はただひたすらに刀を研いだ。二つに折った和紙で刀身を挟み、すっと研ぐ。一度研ぐと和紙は使い物にならない。しかし魔封じのために
しばらく前に私は旅に出た。蛇女につけ回されて、家を空ける必要があった。物理的に距離を取って逃げなければならなかった。蛇女は自傷に飽きて私を
そこは
問題があるとすれば言語の壁だった。神父は多少なり和の言葉に精通していたが、リリィはほとんどさっぱりだった。というのも、神父の
教会への滞在期間は四ヶ月だった。神父はしきりに私とリリィの結婚を
「れーしさま」ある晩、リリィが私の部屋を訪ねてきた。「眠れないのかい」「うん」「話でもしよう」教会の中は閉鎖的だった。神父は私が紹介した、聖職者が唯一口にすることを許されるという
私はリリィが修道女だったので、手を出さぬようにしていた。それでも、お互いの手を握ってみたり、体を寄せ合ってみたり、たまに口づけを交わしたりしていた。しかしながら、やはり修道女には手を出せない。修道女という生き物は、純潔でなければならない。それは私の国の巫女と同じだった。修道女はしばらく純潔を守れば、いずれ聖母ともなり得るという話を聞いたことがあった。私はリリィの、異国の美しさに
しかしながら、リリィは死ぬことになる。
教会に悪魔がやってきたからだった。原因は神父だった。神父は、私が勧めた御神酒だけでは飽き足らず、
しかしリリィは異国の言葉で、否定を示した。
何故なら私を愛した時点でその純潔さは失われ、平等性を欠いた愛情は、
リリィの着ていた修道服と、首飾りだけがその場に残る。悪魔は礼拝堂の長椅子に、脚を組んで腰掛けていた。「何故消えない。お前を殺すかもしれないと言ったはずだ」私が問うと、悪魔はやる気のなさそうな声で言う。「気持ちが分かるからさ」と、溜息交じりに悪魔は言う。「何だと」「俺はその昔、お前さんみたいな立場だった」「修道女を愛したのか」「そうだ。その上、お前さんのようには利口じゃなかった。俺は悪魔の要求を飲めずに、女を殺しに来た悪魔を撃ち殺した。もう何百年も昔の話だ。俺の女は寿命と共にこの世から魂ごと消滅した。輪廻もなく、転生もない。存在ごと、縁が切れた。俺は悪魔殺しの代償として、次の悪魔になった。俺を殺してくれるんなら、ありがたい。悪魔の総数は、常に六匹と決まってるからな。誰かが悪魔を殺し、その座に就くのが決まりだ」「なら殺す気にはなれんな」私はリリィの首飾りを拾い上げる。「お前は永遠に悪魔でいるんだ」「ああ。それが俺の
「一人の女の命と引き替えに、迷惑な女を遠のけたわけだ。なあ零士、お前、女を泣かせる商売につけ」話を聞き終えたあと、空栖が言った。「ちなみに、こっちじゃあ、巫女を抱くと悪魔ではなく、
寺の裏庭に位置する場所に、大きな
遅れて寺に戻ると、空栖はいつの間にか勝手に立っていた。「昼飯でも食うか」「いいのか」「
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