ぐちゃぐちゃだな
水円 岳
☆
「ぐちゃぐちゃっすね」
「そうだな」
あらゆるものが床に散乱している汚部屋。開け放たれた扉の向こうはカオスの世界だった。新人刑事を俺と組ませるなんざ最初からぐちゃぐちゃなんだが、踏み込もうとした現場もぐちゃぐちゃか。
「窓から逃げたんすか?」
「周りはびっしり囲んである。逃げ道はどこにもないよ」
「でも、ここに隠れる場所なんかないっすよね」
バストイレも収納もない真四角の空間。家具は皆無。小汚いフローリングの床に、菓子類、ペットボトル、紙切れ、弁当殻がランダムに散らかっている。まさにぐちゃぐちゃだ。で。肝心なホシの姿だけぐちゃぐちゃの中にないと来てる。
「つまりあれか? おまえらが調べた捜査情報がぐちゃぐちゃだったってことか? おいおい、勘弁してくれよ」
「うー」
だが。散らかりまくった室内を見回しているうちに、事の裏面が見えてきた。室内のぐちゃぐちゃに、ちゃんと意味があるってことがな。
「ケン。最後にホシの在室確認をしたのは誰だ?」
「田中さんす」
「やっぱりか」
「は?」
室内をぐるりと指差す。
「ホシはいたよ。田中が来る前は、な。で、田中の確認からあと居なくなった」
「な!」
「デカがホシとつるむなんざ、ぐちゃぐちゃもいいとこだぜ」
室内を指さし、新入りに現場確認の重要性を叩き込んでおく。思考がぐちゃぐちゃのままだと、何年経っても使い物にならん。
「ぐちゃぐちゃなんかじゃない。そう見せてるだけ。偽装だよ」
「どうしてわかるんすか?」
「全面ぐちゃぐちゃってのはありえない。どんなにだらしなくても、ホームポジションと逃走経路は空ける」
「あ……」
ぐちゃぐちゃの中身は必ず偏るんだよ。均一には散らからない。つまり、誰かがあとから撒いたってことだ。
「素直に俺たちに捕まった方がよかったと思うがな」
「え?」
「ホシも田中も組織に始末され、もうぐちゃぐちゃの肉塊になってるさ」
【おしまい】
ぐちゃぐちゃだな 水円 岳 @mizomer
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