ぐちゃぐちゃだな

水円 岳

「ぐちゃぐちゃっすね」

「そうだな」


 あらゆるものが床に散乱している汚部屋。開け放たれた扉の向こうはカオスの世界だった。新人刑事を俺と組ませるなんざ最初からぐちゃぐちゃなんだが、踏み込もうとした現場もぐちゃぐちゃか。


「窓から逃げたんすか?」

「周りはびっしり囲んである。逃げ道はどこにもないよ」

「でも、ここに隠れる場所なんかないっすよね」


 バストイレも収納もない真四角の空間。家具は皆無。小汚いフローリングの床に、菓子類、ペットボトル、紙切れ、弁当殻がランダムに散らかっている。まさにぐちゃぐちゃだ。で。肝心なホシの姿だけぐちゃぐちゃの中にないと来てる。


「つまりあれか? おまえらが調べた捜査情報がぐちゃぐちゃだったってことか? おいおい、勘弁してくれよ」

「うー」


 だが。散らかりまくった室内を見回しているうちに、事の裏面が見えてきた。室内のぐちゃぐちゃに、ちゃんと意味があるってことがな。


「ケン。最後にホシの在室確認をしたのは誰だ?」

「田中さんす」

「やっぱりか」

「は?」


 室内をぐるりと指差す。


「ホシはいたよ。田中が来る前は、な。で、田中の確認からあと居なくなった」

「な!」

「デカがホシとつるむなんざ、ぐちゃぐちゃもいいとこだぜ」


 室内を指さし、新入りに現場確認の重要性を叩き込んでおく。思考がぐちゃぐちゃのままだと、何年経っても使い物にならん。


「ぐちゃぐちゃなんかじゃない。そう見せてるだけ。偽装だよ」

「どうしてわかるんすか?」

「全面ぐちゃぐちゃってのはありえない。どんなにだらしなくても、ホームポジションと逃走経路は空ける」

「あ……」


 ぐちゃぐちゃの中身は必ず偏るんだよ。均一には散らからない。つまり、誰かがあとから撒いたってことだ。


「素直に俺たちに捕まった方がよかったと思うがな」

「え?」

「ホシも田中も組織に始末され、もうぐちゃぐちゃの肉塊になってるさ」



【おしまい】

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ぐちゃぐちゃだな 水円 岳 @mizomer

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