ぐちゃぐちゃに指先が熔けそうなくらい
藤泉都理
ぐちゃぐちゃに指先が熔けそうなくらい
「ぐちゃぐちゃだね」
「ぐちゃぐちゃですね」
可愛い髪型にして。
新しい主人のお願いを遂行すべく、人間と同じ五本指を駆使して挑んだ結果。
主人の髪型はぐちゃぐちゃになってしまった。
「ロボットってみんな器用だと思ってたけど違うんだ」
「申し訳ございません」
白昼のことだった。
まだまだ風は冷たいものの、日に日に明度と熱が上がっていく。
春が近づいてくる。
「まあ、いいんだけどね。どうせ短い間だけだし」
ぐちゃぐちゃになった髪の毛をブラシでやさしく梳いて元通りにしたあと、再挑戦した。
ながく、やわく、ほそく、あつく、汗ばんでいる髪の毛だった。
幼い子はね、頭によく汗をかくの。
主人の母者が言っていた。
「私さ、もう暫くしたら、髪の毛を短く切るんだ」
「誰かにお願いされたのですか?」
「ううん。誰も言わないよ。長くてもいいって言ってくれた。でも。私、決めてたんだ。修行が始まる時にさ。短くしようって。明後日。だからそれまでにうんと長い髪の毛を楽しもうって思って」
「それでしたら、母者に頼まれた方がよろしいのではないですか?」
「できないって降参するんだ?」
「はい」
断言すれば、主人は振り返って、にひひと奇妙な笑い声を出した。
「やーだね。あなたが可愛くするの」
「それが主人のお願いでしたら遂行します。必ず」
「約束ね」
小指を突き出されたので、前に教わった通り、小指を絡ませて、約束を破ったら何かすっごい嫌なことが起こると言って、指を切った。
お願いを遂行できないまま、主人は修行に出て行った。
お願いを遂行すべく、鬘を使って、可愛い髪型にできるように訓練に明け暮れた。
三十年後。
「髪質が変わったので可愛い髪型にできませんでした。再度この髪質で訓練してお願いを遂行します」
「お。言い訳を覚えたか」
カラカラと笑う主人の髪の毛は硬く、太く、曲がりくねって、とても熱かった。
指先が熔けそうなくらいに。
ぐちゃぐちゃに指先が熔けそうなくらい 藤泉都理 @fujitori
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