第14話SFアニメの発進シークエンスってカッコいいよね

『ただいまより第百二十六回魔道具コンテストを開催いたしますっ!! 会場内はとても混雑しておりますのでゆっくりとお進みください。午後から行われる大会まで会場内の展示品や飲食店をお楽しみくださいませ』


 パンパンッ! パパンパンッ! 小さな花火っぽいものが打ち上げられ魔道具コンテストの開催がアナウンスされた。


 この国以外の貴族や民衆も魔導都市に集まってくるほどの人気があり大盛況となっていた。このコンテストは毎年この季節に行われており、開発した工房の青田買いにくる他国の軍事関係者や値の張る魔道具を買い込みに来る商人、家族連れで魔道具の展示を見に来ている貴族など様々な人間が訪れている。


 百二十六回も行われている由緒ある大会なのだが時代の流れで貴族の癒着や軍事関係者への横流しなどが横行している。もちろん、観覧する人間には関係の無い事であり民衆や貴族は純粋に楽しんでいるものが多い。


 今回は聖神教が特別な物を展示すると告知されており大会への注目が集まっている。


 魔導都市中がお祭り騒ぎになっている時にえるしぃちゃんはルールンちゃんと出店のお好み・ヤキを美味しそうに食べていた。


「うんまぁ~い! あそこのヤキ・ソバも美味しかったけどこの謎肉がいい味しているね」


「あんまり食べ過ぎると午後のコンテストで操縦できなくなりますよ? 大会へ申請した魔導飛空艇の搬入も行わないといけないですし……“あれ”を見た委員会の表情が楽しみですね」


 えるしぃちゃんの異空庫の中にはポポル君が製作し慈愛の女神が魔改造した魔導飛空艇が収納されている。全長が十メートル程に大きくなり二門の魔導バルカン砲と高出力の魔導ジェネレーターが二機も積み込まれている。


 搭乗員数は五名と少なく移動用の乗り物としてはとても贅沢な仕上がりとなっている。ジェネレーターも武装も地下都市から回収したものをそのまま使用しており、ポポル君の技量と何でも屋の爺さんの協力の元なんとか製作する事に成功した。


 さすがに高度な技術を学んだとしても一からの製作は難しかったようだ。だが、飛行する魔道具自体は存在しているが高級で希少なジェネレーターに高効率な燃費を可能とした術式を搭載しているので貴族や軍関係者と奪い合いになる可能性は高いだろう。

 

 事実、空を飛べる魔道具の航続距離を延ばすことに国々の研究者同士がしのぎを削り合っている。今世の中に出ている空を飛べたり走行する魔導具の燃費が悪すぎるのだ。魔導ゴーレムも主戦場で活躍したりしているものの継戦能力は低い。


 弾丸を撃ち出す魔導砲や銃器などがメインで活躍しているのが現状だ。


「ん? ――誰かが呼んでる……」


「どうかしましたか?」


 えるしぃちゃんは魔道具が展示されている広場へ視線を向ける。中央には二十メートル、ビル換算で六階層から七階層ほどの大きな物体に布が掛けられていた。


 聖神教が特別な物を展示すると告知していたので目玉と言うのはおそらく“あれ”であろう。


 心に訴えかける悲しみと悲哀が混ざった感情と言うべき何かが……。


「――エルシィ様ッ!? 大丈夫ですか!? 急にボーッとして」


「……ううん、なんでもない……大丈夫……だと思う。でも、なんだか……悲しい」


 ほろりと涙を流すえるしぃちゃん。なにか懐かしい物を感じたのだ。


:すっげぇ……デカいです

:もしかしてアズエラ司教が回収した守護者ってやつじゃね?

:ついに禁忌の封印が解き放たれる……

:おい、縁起が悪いこと言うなよ……でも、ありえそう


「ん~。リスナーの言う通り封印に関係しているかもしれないね……。なにか懐かしいものを感じたし……聖神教の警備が薄くなったら調査しよう!!」


「ついに私用に調整されたホーリーグレイヴが火を噴くんですね!!」


「証拠が残らないならドンドコ殺って良いけど……」


 ラーハン家でひと悶着があった時に僧兵から回収した光の杖をルールンちゃん専用にチューンナップしたものを所持していた。聖人クラスと言われるルールンちゃんの魔力を注ぎ込んでも自壊することなく使用でき、ロングレンジでも突き殺せるようにアドミンに魔改造が施されているのだ。


 ちなみにえるしぃちゃん用にホーリーグレイヴを改造しようとしたアドミンだが人外の魔力に武装が耐え切れず何度も自壊させてしまった。闘神からお下がりの軍刀を異空庫に入れてあるので、シンプルな強化術式を何十層も重ねて刻印し頑強にしているものが現在使用可能な武装だ。


 実際、刀一本で山すら切り飛ばせるので装備が頑強であればあるほど、えるしぃちゃんは恐ろしい戦闘力を発揮する事になる。


 魔導ゴーレムが何体襲い掛かってこようが彼女には刀一本、いや、拳だけで事足りるのだ。今は分裂し地球に残っている『殺戮の闘神』の戦闘力は群を抜いている。大本であるえるしぃちゃん本体も分裂して戦闘技術は下がってしまったが強大な力を使いこなせば戦闘力は闘神を上回る――ハズだ。


「おーほっほっほっほっほっ!! これで私の聖神教内部での発言力は鰻登り……ふふふふふふふふ。守護者を一体回収するだけの大したことない任務なんて教皇様もたまにはいい仕事を回してくれるじゃないか! 普段は鬼畜外道なクソみたいな任務ばかりなのに――ね……。思い出すだけで腹立たしくなってきたわ……クソッ! 二―ニック。どこかでワインでも買ってきな」


「ハッ! ただちに」


 聖神教の展示物の下にはどこかで聞いたことのある声だと思えばアズエラ司祭と側近二人が会話をしていた。その会話の内容を聞きながら『鰻って異世界にあったっけ? ああ、そういえば似たような魚を命名したっけ』と変な感想を抱いていたえるしぃちゃん。


 どうやら変装の効果はあったようで近くにいる二人には気づいていない。


「それにしても【えるしぃ仮面】とかいうクソガキはまだ見つからないのかい!? 恐らく、あいつら生きている気がするんだよねぇ……あの時は地下都市の警備網を刺激しちまって撤退するしかなかったんだけどね」


「へぇ……。どうやら探索申請を出していないモグリの連中でして……けれど最近、遺跡の出土品に新しい制御チップが出品されていまして出所を探っていますぜ!」


「やるじゃないかスマイラ。そのまま見つけ出して私の前に連れてきなッ!! ――ご褒美をくれてやってもいい――どうだい?」


「!! 全力で探しやす!! 期待して待ってて下せえ!!」


 背の低い寸胴の悪人ズラの男の顎を撫でるように指を這わせるアズエラ司祭。赤髪のトレードマークであるツインドリルヘアーがフリフリ揺れている。スタイルも良く妖艶な雰囲気に側近達も悩殺されている。――お肌は曲がり角なのだが。


「ん? 不躾な視線を感じたんだけど……気のせいかね」


 感が鋭いのかえるしぃちゃんの方向へ顔を向けるも素早く隠れる。口の悪い人間は自身の悪口に敏感らしい。


「(ささ、エルシィ様。見つかる前に他の場所でも回りましょう)」


「(そうだね~、午後のコンテストまでまだまだ時間があるしね)」







 コンテストに参加する際に用意されている倉庫に魔導飛空艇を出しておかなければならない。書類を提出する際に魔導ゴーレムなどの大型魔導具には出場者の為に倉庫の貸し出しなどが行われている。もちろん倉庫の使用料は割と高額な参加費から引かれている。


 指定されて区画に異空庫からじわじわと取り出していく。雑に排出しても壊れない装甲強度を誇っているのだが、できるだけ綺麗なままコンテストには出たい。


 その様子に倉庫内にいた警備員や魔導ゴーレムの整備員が驚く、異空庫の使用はもちろん魔導ゴーレムを収納するサイズの異空庫は大貴族や王族クラスしか所持していないし使用できない。


「(おい、どこかのエライお貴族様とかなのか?)」


「(分からん……――え~っと、あの区画は『アース卿』という名で書類申請されているだけだな……形状からして飛行系の魔道具だな。お嬢ちゃんのわがままで金でも注ぎ込んで作ったんじゃないか?)」


「(あれは……希少な魔導ゴーレムのブースターに装甲も贅沢な使い方をしてやがるぞ……)」


「(はぁ~やだやだ。軍事目的の大型魔導具部門に金に飽かせたハリボテを持って来るなよ……航続距離も速度大したことないんだろ? 墜落する前に誰か止めてやれよ……)」


 散々な言われようである。ルールンちゃんは純白の杖に手が伸びるのを我慢しているようだ。 


「(クソ共が……殺すぞ……)」


「(まぁまぁ。ポポル君が頑張って作ってくれたんだし気にせずに胸張ってコンテストに出ようよ。この魔導飛空艇の性能を知れば掌をドリルみたいに回しながら態度を変えて来ると思うよ?)」


 飛空艇に乗り込むと起動シークエンスのチェックを行っていく。コクピットブロックは魔導ゴーレムのものを流用しておりえるしぃちゃんは二つの操縦桿を握りしめながら『ぎゅお~ん、ズバッバババッ!』と口で効果音をだしながら遊んでいるようにしか見えない。


:相転移エンジン出力安定

:エンジン始動!!

:発進シークエンスがフェイズ2へ移行

:発艦システムオールグリーン

:行けますっ! ――艦長ご指示を……


「発進せよっ!!」


「しませんよ?」


 リスナー達と宇宙戦艦の発進ごっごを行って始動キーをノリで回しておりブースターを火を入れる前にルールンちゃんがえるしぃちゃんを止めた。エンジンのアイドリング音がただでさえ倉庫内で響き警備員さんの怒鳴り声が外から聞こえてきている。


 えるしぃちゃんの額を『めっ』とつつくと舌を出してテヘペロしてくるが、機体の外から聞こえる警備員の怒鳴り声は治まっていない。


 仕方なくルールンちゃんが対応するもテキトーに返事をしているだけだ。そんなルールンちゃんの塩対応に『出展する時だけエンジンを始動させてください』と諦めた様子で言うと去って行った警備員さん。えるしぃちゃんと行動するようになって肝が太くなっているルールンちゃん、エルシィ至上主義の片鱗が見えてきている。







 午前中に人間が持ち歩ける小型や設置型の魔道具は製作者が会場で各々が実演し一般投票と特別審査員による投票が行われており午後に入る頃には票の集計に入っている。


 扇状に設営された観覧席にはアガシオンの兄妹や何でも屋の爺さんが大勢の観客と一緒に演習場内を移動していく大型の魔導具――最新型のゴーレムを見ていた。


「うひゃ~すっげぇな……。メナス工房の多脚型ゴーレムに拠点制圧用の電磁加速砲レールガンを搭載しているじゃねえかっ!? あそこまで小型化が実現していたのか……」


「もぅっ! お兄ちゃんそんなに大きな声出さないでよ! 恥ずかしいじゃない……」


 演習場内をさまざなゴーレムが搬入されていく。大型魔導具の部門と大雑把に分けられているが実質、魔導ゴーレムのコンテストと言っても過言ではない。


 武装した格好で歩行するゴーレムの中に異質な存在が入場して来る。


 見た目は宇宙戦争に出てきそうな鋭角的な戦闘機。無骨な銀色のボディーにはピンク色のラインが塗装されており微妙に合っていない。飛行系の魔道具はネタ枠として扱われておりこうしてコンテストに出場するなど数十年ほど行われていない。


 魔導ゴーレムでも滞空時間は限られておりあのような飛行機型のものが空を飛ぶことなどできるはずがないと言われているからだ。魔力消費も激しく操縦者を確保する事すら難しいのが現状だ。


 魔導飛空艇はホバー状態でのろのろと侵入して来ており観客席からも失笑がこぼれている。


 その雰囲気にポポル君が拳を握りしめながら悔しさを堪えている。


「私達の名前は出せないけれどえるしぃちゃん達が何とかしてくれるよ――たぶん……」


「……そこは絶対って言う所なんじゃねえのか? まぁ、あいつらなら何かやらかしてくれるだろ」


「いや、やらかされるとめっちゃ困るんじゃが……。“あれ”の出所や市場へ流した資材を誤魔化すの大変じゃった……儂もっとマージン貰っても良いと思うんじゃが」


「……たしかに爺さんにはかなり助けてもらってるな。でも、あのルールン……――姉ちゃんが怖いんだよ。爺さん自分で交渉してくれよ?」


「儂、命が惜しいので辞めておくかの(ルールンとかいう娘めっちゃ怖いんじゃ)……売却益の権利があの小娘共にもあるのが頭が痛い」


「お、始まったぜッ! ――はぁ!? 出場者同士の模擬戦で採点を行うだってぇ? 募集要項に書いてあった採点方法と違うじゃねえか!?」


 魔道具コンテストを開催している委員会からの突然の採点基準の変更。おそらく裏金を積まされたのかドヴィン工房に不利な魔導ゴーレムが出てきたか分からないが、何も知らされていない工房は不利になるはずだ。


「また……またこういう事をやるんだな……。もう、この魔導都市は終わっちまってる……あの時みたいに……俺の両親を殺した時みたいに都合が悪けりゃなんでもやるのかよッ!!」


 増悪の表情に染まるポポル。強く握りしめた掌から血液が流れ出ている。


「お兄ちゃん……」


「ポポル落ち着け、とにかく今は見守るしかない。あの子らに期待するとしよう」

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