第13話コンテストどうするの?

 コトリ。ペンキの色が剥げた古びたカウンターに小型魔導ゴーレムから取り出した制御チップを置く。


「――ふむ。王国金貨で二十……五といった所かの?」


「ふっざけんなッ! 魔硬貨払いだろそこはっ!? 信用の低い王国金貨で二十五枚とかどれだけボッタクるんだよ!」


 現在流通している王国金貨は混ぜ物が多いと周辺国にとって評判が悪く人気が無い。他国で換金する際に交換率が不利になってしまう。魔硬貨と硬貨への加工の難易度が高い上に信用が一番高く、魔道具の燃料としても優秀なため重宝されている。


 それほどポポル君の出した制御チップは価値が高い筈なのだが『何でも屋』の爺さんはポポル君の後ろ暗い所を見抜き、買い叩こうとしているのだ。


「クソガキが……どこで手に入れたか分からんがまっとうなルートじゃないんじゃろう? お主、古代遺物を扱う際に義務である探索許可証も提示しておらんのに……」


「――クソッ。…………ごうつくばりな爺が――しかたねぇ……とびっきりの賄賂欲しくないか? そのかわり断るなら取引は二度としねぇぞ?」


「ふむ……物によっては相談に乗るが……クソガキの両親には世話になっていたしのぉ……あんまりピピルを泣かせるんじゃないぞ?」


 足元に置いてあった“ブツ”をテーブルに置いた。結構な重量のある金属製のシロモノを見た爺さんはあまりの驚愕に目を剥いた。


「キサマッ! あれほど危ない事はするなと言っておったろうッ!! しかも……しかも、こいつは――後期型の小型化された魔導ジェネレーター……発掘される事が少ない高機動型魔導ゴーレムにしか搭載されていない希少なロットナンバーじゃねぇかッ!」


「へへっ、ちっと苦労はしたがなんとか手に入れたんだ。こいつは“ココ”に存在するだけで裏の者がこぞって奪いに来る“ヤバイブツ”だ……これで爺さんとは一蓮托生だぜぇ!? まぁ……特級にヤバい物はこれだけだ。もし――もし、断ったら……俺の口がポロッと滑っちまうかもしれねえなぁ……」


「クソガキが………………はぁ、どうしてあんな可愛かった子供がこんなに悪くなっちまったんだ…………わかった。取引自体は儂が特をするがボッタクるのは辞めてやろう。その代わり、このシロモノ以外にヤバい物は本当に無いんじゃろうな?」


 そう爺さんに問い詰められるとポポル君の目が泳ぎ始めた。実はこの取引のシナリオはリスナー達が見たハードボイルドな映画のセリフをパクッてえるしぃちゃんがレクチャーしていたという裏があった。本当はこんなことをポポル君もしたくなかったのだがお金を稼いでピピルちゃんに渡すというミッションが課せられている為に苦肉の策として決行したのだ。


 その様子を見て何か引っかかった爺さんは彼の懐に踏み込む決意をした。


「実はのう、お主の両親に貴様ら兄妹を頼むと言われておっての――――アガシオン工房へ連れていけ。話はそれからだ」


 ポポル君の頭を節くれだった爺さんのデカい手がギリギリと締め付ける。その歳の割に強い握力に涙目になっていくポポル君。返事は『否』とは言えるはずもなかった。実はこの爺さん、アガシオン兄妹を心配してくれている面倒見のいい人間であるのだ。







 アガシオン工房へ訪れた爺さんは顎が外れんばかりの光景に眩暈がしていた。スマホからの慈愛の女神の指示に従い、悪乗りをし始めたえるしぃちゃんにポポル君。気が付けば『アガシオン工房』はそこらの軍事施設を超えうる防衛拠点へと変貌していた。


 新たに敷設された整備ハンガーには大型の魔導ゴーレムが数機程並んでいた。


 地下都市から回収した大型魔導ゴーレムに様々な武装や複数の魔導ジェネレーターを組み合わせて大出力化し小型ブースターを新設して高機動型に変更。さらにえるしぃちゃんやルールンちゃんの専用機としてカラーリングもビビットピンクやメタリックブルーなどに塗装していた。


 サイズが小さくなるが中型の魔導ゴーレムをポポル君用に専用機化しているのは控えめな彼の性格故だろう。

 

 なぜこうなったかと言えばアドミンから学んだ魔導文明の技術を慈愛の女神が端末越しにポポル君へ指導を行った。彼は才能があったのかドンドン高度な技術を習得していき魔導具職人としての腕を伸ばしていった。


 元々開発していた魔導浮遊ボードも複数人で搭乗可能な魔導飛空艇へと進化を遂げ、コンテストに出したら一発でアウトなシロモノを作り出すようにまで成長してしまっていた。


 ここまでに至るまで三週間経過しておりアガシオン家の極潰しが三人へと増えてしまっていた。


 生活資金が目減りして行っている現状に妹であるピピルちゃんの目がドンドン険しくなっていっており、そろそろお金を得なければ不味いと気付いたところで爺さんの何でも屋にヤバイブツを売りさばきに行くという経緯があったのだ。


「あ、おかえり~ポポル君。わたしの伝授したカッコいい交渉術(脅迫)で爺さん脅してお金ふんだくってき…………あっ。――初めまして(きゃぴ) わたし~えるしぃて言いますぅ(きゃるん) お爺ちゃんはお茶菓子は何がいいですぅ?(ぶりっ子)」


:もうすでにお寿司

:いや、計画した俺らも悪いよ? 実行するなんて思わないじゃん?

:あの高度でダーティーな交渉術。まさか実行するとは……

:爺さんにバレてるってwww


 爺さんはポポル君の豹変した様子に違和感を感じていた。その元凶がまさかこのブリッ子をしている小娘だとは夢にも思わなかったようだ。


「お、おまえ、おま、おま、おま――――」


 パタリ――白目を剥いて倒れる何でも屋の爺さん。


 色々とヤバイブツを見た衝撃と、怒りの感情がグングン高まってしまい頭の血管が逝ってしまった……。







 ソファーに寝かせていた爺さんが目を覚ますなり三人にこの事を秘密にすることを約束させた。流通しても問題ない素材をうまいこと流す代わりにマージンを受け取る契約を行った。慈愛の女神から見ても問題ない金額であり契約内容だったのでポポル君が快諾。爺さんも巻き込んでお金儲けの計画を立てていく。


「はぁ……まさか嬢ちゃん達と三人で地下都市で運良く兵器工廠を見つけるとはのぉ……あそこは入り組んでおる上にセキュリティが厳しくて誰も近づけなかったハズなんじゃが……まぁ、これでアガシオン家に掛けられた賠償金の支払いも問題ないじゃろ。――ポポルよ。お主、まだコンテストに出て委員会の闇やドヴィン工房の悪事を白日の下に晒すと考えておるのか? お主や妹の命が危険に晒されてもなお、行うものなのかの? こうして一攫千金と言うにはちと違う気がするが金銭の問題は無くなっておる……」


「…………妹は――妹は」


「自分自身の命を軽く見ておるじゃろう? 兄まで殺されたら妹の心はどうなるんじゃ? 委員会には貴族の人間も一枚噛んでおる。権力には抗えない絶対的な身分差があることを儂ら民衆は理解しておるはずじゃ……辛酸を嘗めさせられることも少なくない。――見て、見過ごして、知らぬ振り。避ける事しかできない無力な人間の処世術じゃよ……儂だってお主等の両親と仲は良かったし胸も痛めた。目を掛けている兄妹が亡くなる所なんぞ見たくはないんじゃ……」


 爺さんに諭されて俯くポポル君。身分制度や権力者に歯向かうには“力”を持たなければいけない。しかし、一度始まった戦争はどちらかが滅ぶまで続く泥沼になってしまう。貴族は潰されたメンツを取り戻す為に執拗に追いかけて来るし、工房の人間は裏の暗殺者を雇って殺しに来るだろう。


 大切な人物や守る者がいる人間はそう言うものに弱い。どこかに背後関係が無く力を持っていてお願いを聞いてくれそうな人間なんてそう都合よく――


「わたしにまっかせなさ~いッ!! コンテストにでて優勝すればいいんでしょ? んでわりぃ奴らを倒してしまえばいい――それだけでしょ? ふふふ、任せてっ!」


 ――存在していた。


 一騎当千、天下無双、万夫不当、百戦錬磨の猛者である、元『殺戮の闘神エルシィ』がいるのだ。


 ポポル君が魔道具コンテストで優勝する可能性は高い。得票数を操作されなければ、だが。製作した魔導飛行艇などには古代でも使用されていない慈愛の女神オリジナルの高度な術式が組み込まれており高効率高燃費で長い距離を飛行可能としている。


 解析しても術式自体がブラックボックス化されており、委員会やドヴィン工房の人間でも不可能だろう。


 だが、アガシオン工房とポポル君の名前を出さずとも奪い取ろうと考えるのが世の権力者や悪い人間だ。必ず騒動が起こると言っても過言ではない。


 つまりえるしぃちゃんは『襲って来る悪い奴らを全員殺しても問題ないよね?』と同義の発言をしているのだ。


「――エルシィ……おまえ……」


「小娘になにができる……まさか、あの専用機化した魔導ゴーレムを使う気か……? とんでもない被害がこの都市に出るぞっ!?」


:ああ、無双劇が始まるのか……

:委員会のやつら……いい奴……ではないがお悔やみ申し上げます

:えるしぃちゃん魔導ゴーレムより強いんじゃない?


 チッチッチッと指を振る仕草を爺さんに向けるえるしぃちゃん。ちょっと爺さんの額の血管がビキリと音を立てるも――話を聞くまで堪えるんじゃ……。と怒りの感情を沈めた。


「この、ゴイスーな(とっても凄い)わたしのパンチでバッタバッタと薙ぎ倒すまでよっ! シュッシュ、シュッシュ!!」


 自分の口でパンチの風を切る音を再現しながらアピールを始める。実際に音を置き去りにしているので効果音を付けないと寂しかったのだろう。可愛い少女が腕を伸ばしきっているように見えているだけで超高速でパンチを繰り出しているのだ。


 爺さんには全く頼りない小娘にしか見えていない。


「ポポル…………――いい友達じゃのう」


「んなっ!? 憐れんだ目で見るんじゃねえよ! ――こいつ、エルシィは本当に凄いんだぞ!? 魔導ゴーレムに乗らなくてもそこらへんの奴らはぜってえ敵わない程強いんだぞ!?」


:実際、高速パンチには見えないよな。配信をスロー再生してようやくわかったし

:あれ、ヤバいくらい威力が秘められたパンチなんだよなぁ

:コンクリなんて一発で粉砕よ!!


「まぁ、この都市に住まない貴族のお嬢ちゃんなら……可能じゃろうて。本当にいいのか? 会ったばかりなんだろう? アガシオン家の兄妹とは」


 う~ん、と考えているえるしぃちゃん。ニヤリと笑うとカッコよくキメポーズをしながら宣言した。


「友達とはいつの間にかなっているもので、かけがえのない縁です。嘆き、悲しみ、苦しんでいる時こそ助け合うのが――真の“友達”だと思いますよ? ふふふ」


 うっすらと神々しさを感じさせるえるしぃちゃんの佇まいに爺さんは思わず放心する。次の瞬間『ふははは』とお笑いをすると手を叩きながら喜んだ。


「とんだ――とんだ奇特な“友達”を得たのうポポル。こんなに友達想いな馬鹿な人間はとんと見なくなっておったが……ふはははっ。大事にするんじゃぞ?」


「――うっせぇよジジイ。…………ありがとう……エルシィ」


:ポポル君がデレた

:デレ期来ました

:でも、えるしぃちゃん女の子が好きなんだよね

:青少年の恋心をバッキバキに折っていくスタイル

:こうして酸いも甘いも経験するんだぞ……少年……


 近々行われる魔導具コンテストに向けて魔道具の最終調整を行っていくポポル君。そして、何でも屋の爺さんから得た収入をホクホク顔で受け取ったピピルちゃんは、えるしぃちゃんとルールンちゃんに最上級のおもてなしをするようになった。にぎやかな日々が過ぎ去っていき、運命の時が訪れようとしていた。

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