第9話ポポル君とピピルちゃん

「おじゃましま~す! おっ、なんだコレ」


「やめろって! それ術式回路が繊細なんだから丁寧に扱ってくれよ!?」


 兄弟と話し込んでいる内に暗くなってきたのでお家へお邪魔する事になってしまったえるしぃちゃん達。配信も停止させて都市観光案内の続きはまたの機会にしている。遊び倒した魔導浮遊ボードが色々種類があるとの事なので紹介してもらえる事になった。


 なんでも開発者であるお兄さんがボードを操作できるえるしぃちゃんにお願いがあるそうで、聞いてくれるのならば好きな魔導浮遊ボードをプレゼントしてくれるそうだ。


 聖神教に『聖人』認定されたルールンちゃんの大きい魔力量でもボードを少し浮かせるのが限界で、無尽蔵に飛び回るえるしぃちゃんはちょっとどころかすっごいおかしいとの事。まぁ、腐っても女神ですし。


 妹さんとルールンちゃんが二人で夕飯の支度をしている間にお兄ちゃんから魔道具の説明と経緯を聞いた。


 兄の名前はポポル、妹がピピルと言う名で魔導具職人であった両親に憧れて小さなころから二人で魔道具の研究開発を行っていた。


 両親は魔道具のコンテストで入賞する程の腕前だったのだが――魔道具の動作不良の事故で亡くなってしまう。その際に発生した事故の賠償金をコンテストを開催している魔導具開発委員会が生きている兄弟に多額の損害賠償を請求をした。


 コンテスト開催中の不慮の事故と処理されてしまったのだが両親の魔道具には何十もの安全装置が施されており。違和感を感じたポポルは両親の魔道具を調査する。すると何かしらの細工の形跡が残っており安全装置が作動しないようにされていたらしい。


 すぐさま、委員会に報告をして損害賠償金の撤回を求めるも全く相手にされなかった。


 両親が亡くなって優勝したドヴィン工房の作業員が両親の魔道具に細工をしていたところを見た気がするとピピルがポポルに報告するも、すでに委員会は取り合ってくれなかった。ドヴィン工房の周囲の評判は悪く、委員会の席も金で購入した工房の出身者が多数存在しており、最初から仕組まれていた出来事である可能性が高かった。


 それから細々と損害賠償金を返済しながらも魔道具コンテストで優勝し、ドヴィン工房の悪事を観衆の前で公表してやろうと日々努力している……だそうな。


「え? 無理じゃん? 公表した次の日に不慮の事故で兄妹ともに近所の川に浮かんでいそう……」


「ええ、どこの悪党も考えることは同じだと思いますよ? 努力を続けることは素晴らしい事ですが……」


「だから言ったじゃんお兄ちゃん。魔導具職人としての腕はいいんだしウチの工房盛り立てて近所のメルシーちゃんと結婚して幸せに暮らせばいいんだよ? ――たしかにお父さんとお母さんを殺されて悔しいよ? だからといってお兄ちゃんまで死んだら私はどうしたらいいの……?(お兄ちゃん死んだら借金返せない上にお金持ちになって豪遊できないじゃん……素晴らしいニート計画が……)」


 えるしぃちゃんとルールンちゃんはピピルちゃんの腹黒い小言がもれなく聞こえていた。苦笑いしながら今にも泣きそうな顔をしているポポルを見ている。


「――ぐすっ。うぇっふぇっ」


 ――あ、泣きそう。(三人娘)


「どぼじでそんな事いうんだよお゛ぉぉぉお゛ぉぉぉっ!! おんおんおん――」 


 そのポポルの泣き声は三軒隣のメルシーちゃん家にも聞こえるほどの大音量であった。――けれど、そんな泣き虫な所も可愛いのよ? 守ってあげたくなるじゃない(メルシーちゃんのポポルに対する感情。ピピル調べ)







 ピピルちゃん特製ガッツリニンニクを効かせたデカ盛りスタミナパスタをみんなでもくもくと食べている。嗅覚をガツンと刺激してくるニンニクと廃油のような黒ずんだオイルが喉を汚染していく。しかし、なぜか癖になるジャンクフードのような美味しさが印象的だ。


「けぷっ」


「はい、お口拭き拭きしましょーね」


 お腹がポッコリになっているえるしぃちゃんのお口をルールンママが拭き取ってあげる。もうすでにルールンちゃん無しでは生きられないようにエルフの調教が進んでいるようだ。


 泣き止んでから夕食を黙々と食べていたポポルが何かの設計図をテーブルに広げた。――あ、ピピルちゃんが片付けている皿のパスタの汁が設計図にかかっちゃった。また泣きそうになっている。


「これを見てくれ……。魔導浮遊ボード……いや、名前は魔導飛行スクーターだな。複座式になっていて荷物を積載できるラックも設置する予定だ……」


 設計図には大型バイクの外装を箱型のようにして車輪を無くしたような形をしている。エンジンの断面図や出力などのスペックが細かく書き込まれていた。


「実はこいつを製造するには術式を制御する集積回路――チップが必要なんだ。お願いと言うのはこの都市の地下にあるゴーレムからチップを一緒に回収しにいって欲しいんだ。おまえらの護衛とかいるんだろ? コンテストに出場する為に何としても必要なんだ! 頼む!! ――もし、チップを回収してくれるなら製作した魔導具をそのまま渡すからさ!」


 両手を床に突きながら必死に懇願して来るポポル。


「それと“こいつ”のパイロットにもなって欲しいんだ! あんな風に動かせる人間なんてお前しかいねぇ……そのまま持って行くんだから試運転とか必要だろ? な? いいだろ!?」


 土下座のような行動をとるポポルを苦笑いしながら見つめ合うえるしぃちゃんとルールンちゃん。えるしぃちゃん達にはポポルの言う護衛は存在していないのだ。


「え~と、あのね、そのぉ……護衛はわたし達にいないんだけど……腕には自信があるよッ!?」


 ふんす、と細い腕の持ち上げると『力があるんだぞぉ!』アピールをする。細身で絶壁なエルフはすっごい頼りなく見える。キラキラのラメ入りピンクパーカーを着ている貧弱エルフに力を期待する方がおかしいだろう。


 護衛がいないことを聞いたポポルは絶望した。――だって……お前ら貴族って言ったじゃん……護衛付けずにほっつき歩いているなんて思わないじゃん……。


「ふ…………ふぇぇぇぇええぇぇぇぇぇえん……ママぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 二度目の少年の慟哭に近所のメルシーちゃんがポポルを慰めに来るまで泣き止む事は無かった。


 近所のメルシーちゃんがたっぷりポポルを甘やかした後に『ポポルをいじめてもいいけど泣き顔は私だけのものだぞ?』と正妻ムーヴをかまして去って行った。


「ぐすっ……これが、魔導都市の地下にある古代遺跡の簡易マップだ。『スカベンジャー』の連中がよく古代遺跡の発掘品を探索している。ここの地下には特に発展していた地下都市が古代に存在していてな、貴重な発掘品がまだまだ残っている事で有名なんだ。なんでも地下のマグマ溜まりに到達するまで施設が伸びているなんて眉唾な話が出てきている……ま、俺達が必要とするチップを積んでいる魔導ドローンと言われている防衛兵器の残骸を漁ればいいだけなんだけどな」


 ポポルが泣き止んだ後に【えるしぃちゃんねる】の配信を開始する。古代遺跡の探索なんてロマンたっぷりで取れ高のあるシーンを映さないわけにはいかない。


 薄暗い部屋で行う事前ミーティングなんて胸が湧き踊るだろう?


:計画は順調だ……問題ない……フッ

:ふぉぉおおぉ! 人工ダンジョンみたいだな……

:スカベンジャーっ!? なんか、ワルかっこいい響き……

:……もしかして、封印に関するヒントもあるんじゃないか?

:えるしぃちゃん! もしかしたら、もしかするかもよ!?


「ふにゅ? 封印……封印……ああっ! そうだった!」


:これ絶対忘れてたやつやん

:こういうダンジョンではガーディアンとかいて封印を守ってるパターンだな。うっかりスカベンジャーが封印に近づいて都市に巨大な怪物が現れる映画見た事あるわ

:……おい……それ……

:やっちまったなぁ……

:人はそれをフラグと言う


「話を続けるぞ? ここら一帯は一応スラム街に位置している。まぁ、治安はそこまで悪くはないがな。――ここの地下排水溝から侵入して、このルートを辿っていくと……ここだ」


 トントントン、とポポルが地図を指で叩く。便宜的に地図には階層が記されているが指がなぞったルートを通れば丁度五階層の辺りに侵入できるようだ。


「本当は地下遺跡に侵入するにはめんどくせえ手続きを踏まなきゃなんねえんだが……内緒だぞ? 魔道具開発する為にいちいちパーツを購入してたら素寒貧になっちまうんだよ」


「お兄ちゃん危ない事ばっかしているからメルシーちゃんが心配しているんだよ……でも、そのおかげでおまんま食べれているからしょうがないんだけど……」


「もしかしたら巨大ロボのパーツもゲットできる……!? 夢のギャンダムッ!?」


「ばっかッ、おまえ!! 魔導ゴーレムがある場所は兵器格納庫といって、厳重なセキュリティにめっちゃ強い魔導ドローンやトラップ満載なんだぞ!? 命がいくつあっても足りねえよ!! ――いいか? 絶対行くなよ!? 絶対だぞ!?」


:押すなよ! 絶対押すなよ!? はフリですね

:念を押して言われると行きたくなる精神

:これ絶対行くよな、えるしぃちゃん

:ポポル君可愛い


 目をキラキラさせて夢の巨大ロボへ思いを馳せるえるしぃちゃん、ルールンちゃんは抑止力にならずほいほい深層まで探索に行きそうな勢いである。


「兵器工場は古代から現代まで未だに稼働しているんだ。地下都市の防衛機構に目を付けられたら永遠と追っかけて来るぞ……。頼むから勘弁してくれよぉ……」


「う、う~ん。うん、うん、うん。大丈夫! ――たぶん」


 教えちゃいけない人物にお宝の存在を教えてしまったポポル君、すでにこの二人にお願いをした事を後悔し始めている。涙目になりながらも翌日の探索計画を立てると早めに就寝する事にした。


 異空庫から大きめのベットやシーツをポイポイ出しているとまたしてもポポル君が頭を痛めていた。


「おまえ、それ……ご禁制の異空庫じゃねぇか……貴族だから大丈夫だと思うけどよ……まぁ、探索の時に活用してくれたら助かるよ……その分、開発した魔導具の予備部品の製作頑張るからさ……」


「うんうん。明日の探索頑張ろうね!! 巨大ロボ! 巨大ロボ!」


「エルシィ様楽しそう……ふふふ……一緒に巨大ロボに乗りましょーね?」


「ピピル………お兄ちゃん明日死ぬかもしんない」


「大丈夫だよ? 多分……あ、一応銀行の名義変更と相続放棄の書類にサインしておいてね? もし、お兄ちゃんが死んだら私、メルシーちゃん家の子になるから!」


「――ふぐぅ……ずびっ……」


 泣き虫ポポル君の頭を優しく撫でるピピルちゃん言動と行動が全く嚙み合っていない。お兄ちゃん的には無事に帰って来てね! と言って欲しかったのだろう。


 女三人でおっきなベットで寄り添いながら就寝するとポポル君はリビングの床にタオルを引いて寝かされるというとっても可愛そうな子であった。

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