第6話 うわさ話と逃げた私
午後の授業は本当に余計だ。この時間に睡魔が襲ってくるのは必然である。昼食に食べている甘いパンのせいだ。あいつが全て悪い。詳しい仕組みはわからないけど糖分を摂りすぎる事が食後の眠気に繋がるらしい。だとしたら心当たりしかない。メロンパンはやめようか。いや、メロンパンが食べれないなら死んでも......それは言い過ぎだ。
頭の中ではこんな馬鹿らしい事を考えているのだが、外から見れば良く集中して授業を受けているように見えるのかもしれない。だから私は頭が良いと誤解される事も多かった。定期考査の順位が張り出される時に驚かれた事がある。私はそんなに頭が良くないし勉強は好きじゃない。寡黙で地味な奴全員が頭が良いなんて偏見は捨ててほしいと思う。
なんとなく授業を乗り越えて帰りの支度をしていると声を掛けられた。
「ねーマヤ。今日は一緒に帰らない?」
幾度聞いてもこの風鈴みたいな音には慣れないものだ。しかも声なんか掛かるはずないと思っているので余計にびっくりして変な声を上げてしまう。
「もしかして、びっくりした?」
彼女は大きなまん丸の瞳で私の顔色を伺う。座っている私の太ももと彼女の足が触れ合っていることにすら気づかないくらいに見惚れてしまった。思えば昼食の時もこんなに近付いたことはなかったし、移動の時も私は一歩引いて歩いていたので初めての距離感であった。
「え……あ、うん。大丈夫」
私は精一杯に嫌ではないことを表現する。
「はー、そっかぁ。嫌われちゃったかと思って心配したよ......」
「い、、いやじゃないよ!」
「よかったぁー。そしたらね、ショートホームルーム終わったらまた来るからね」
彼女は手を振りながら自分の席へと戻っていく。
「はぁー」
私は溜息は吐いた。何をしているのだ。友達が話に来ただけなのにこんなに心臓は飛び出しそうだし吃りすぎだし。このままではいけないと首を振り気持ちをリセットする。ぼんやりと肖子の方を見ると人集りが出来ている。
肖子は本当に人気者だ。皆んなから慕われているし頼りにもされている。絵に描いたような優等生である事は誰が見ても明白である。同性に限らず異性からの人気も高く、クラス学年問わず一体何人もの男子を振ってきたのかわからないと聞いたことがある。
これは噂話なので真偽のほどはわからない。だけど本当の話だと納得してしまうほど彼女が魅力的なのは間違いない。
「なんでさっきは
コソコソと私の事を話しているような声が聞こえて来るような気がした。
ホームルーム前の教室は各々が談笑しているので少し騒がしいし、私の席と肖子の席はちょうど教室の右後ろ隅と左前の隅と対角線上で一番離れているので聞こえる訳ないのだが私の耳にはそう聞こえた、それだけの理由で十分だ。私は教室から出てトイレに向かった。
「はぁー……」
何をやっているのだろうか。鏡に映る自分の顔を見ながらうんざりするように息を吐く。長い前髪を右に流している為右目は隠れている。そんな暗い顔の女がそこには映っている。
自分の事を話している人全てが悪口を話しているように聞こえるのだ。自信がない癖に自意識だけは人一倍大きいのが私だ。それから深呼吸を何度かした後教室へ戻った。
帰りのホームルームが終わった後、居た堪れない気持ちになったので私は先程の約束を蹴って直ぐに教室を出ようとした。
「ちょ──待って……」
ぼんやりそんな声が聞こえた気がした。家に帰ってから、いつものように彼の音楽を聞いたら気持ちも落ち着いてきた。
「なんて事しちゃったんだろう」
溢れでた気持ちが自分の愚かさを物語っていた。面と向かって言われた訳でも、はっきりと聞こえた訳でもない。勝手な言葉に振り回されて、自暴自棄になって約束を破ってしまった。
「ごめんなさい」
聞こえる訳もない謝罪をただ繰り返すばかりだった。
明日はしっかり肖子に謝ろうと決意した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます