第2話 推しは天使で私は陰キャ?
むせかえるような夏の暑さも落ち着いてきた。過ごしやすい秋の風が感じられる。もうブレザーを着ても汗ばまなくなってきた。
私はワイシャツ一枚で過ごすのが好きではないので、夏でもブレザーかセーターを着ている。誰も私の事など見ていないので、気にする必要はないのだが、ワイシャツの透け感が気になってしまうからだ。そんな事を考えていると最寄りの駅まで着いた。
イヤホンから流れるのは勿論彼の歌だ。彼は某動画共有サイトで"歌い手"として活動している。
歌い手とは歌のカバー動画を投稿する人たちの事だ。その中でも私の推しは人気を博しており、自身が作詞作曲をしたオリジナル曲も投稿していて、メジャーデビューもしているれっきとしたアーティストである。
彼の歌声は突き抜けるような高音ボイスが特徴的で、女の人と間違われるような綺麗で甘い声だ。さらに、彼は歌声だけでなく見た目も人気の理由として挙げられる。
まるでホストの様な見た目で肌は真っ白。病弱そうな雰囲気は天使か吸血鬼のようだ。彼には沼る要素が詰め込まれている。多分、人間ではなく天使か神の生まれ変わりなのだろう。
学校の授業は退屈だ。教壇に立つ数学教師の催眠術にはうんざりする。
「──次は
最悪だ。こんな眠い時に指名されてしまった。
私の名前は
クラスに一人ぐらいはいるかもしれない。いつも独り。ぽつんとしているスクールカースト底辺の陰キャラ。それがクラスメイトの私への印象だろう。
「…………は………い。」
クスクス笑われる声が耳に入る。私は思っているように声が出せない。吃音症である。意識すればするほど出なくなるのが厄介な所だ。
だけど、今に始まった事ではないので吃る事に対して変に考えないようにしている。思い悩む時期はとっくの昔に超えたのだ。ただこんな環境では過ごしづらいことこの上ない。
「──えー、っと………」
私は喋り頭に伸音をつけてなんとか正解を答えた。その場凌ぎの特効薬ではあるが、この方法は割と効果的だったりする。効き目は個人差があるみたいだけど。
勉強が特別得意な訳ではないが不得意ではないので答えがわかるのは救いだった。
私がこうして普通の高校に通えているのは彼のお陰と言っても過言ではない。折れるタイミングなんて幾らでもあった。でもその度に彼の音楽に救われた。彼が隣に居てくれるから頑張ることができる。私が彼に向ける感情はそう。信仰に似た何かのようだった。
"推し"の力は偉大だよ。
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