きのうの新曲聞いた?

シンシア

第1話 二人だけの昼休み

「きのうの新曲聞いた?」


 私達の昼休みはいつも肖子しょうこの問いかけから始まる。私と肖子は推し友だ。推し友とはお互いが好きなものを語り合ったり自分の好きなものを布教し合ったりする。時には一緒にイベントに参加し、終わった後には感想会をする友人の事を言う。独りぼっちだった私には想像することさえ難しかった存在だ。


「ここの歌詞良いよねー。彼の本心?って言うか、私達ファンへのメッセージって言うかね。・・・・・・。」

 肖子は初めて聞いた時の事を再現するかのような行き当たりばったりな熱量で歌詞についてを語り出した。瞳をキラキラさせながら無我夢中に話す様はとても愛らしい。普段のキリッと大人びている彼女からは想像が出来ない姿だ。


「ねぇ、ねぇってば、、、聞いてる?」

 そんな事を考えていたら、お叱りを受けてしまった。

「うんうん、聞いているよ。ショーコが可愛いって話しだよね!」

 ついつい、茶化した返答をしてしまったので、肖子はフグみたいに頰を膨らましている。

「ごめん、ごめん!あの曲の歌詞についてだよね。私もそこのフレーズが好き。」

 膨れている彼女も可愛かったが、今度は真面目に返した。

「ちゃんと聞いてるじゃない!もうー!マヤったら意地が悪いんだから!」

 肖子の顔がにこやかになったので私を微笑み返した。

「マヤって突然さ、自分の世界に入っちゃうこと多いよね。」

 当事者であっても他人事のように捉えてしまう私の良くない性格をこうも悪い気がしないように言葉にされると、体がなんとなくくすぐったい感じがしたので顔をしかめて見せた。

「あ...全然馬鹿になんかしてないからね。ごめんなさい。自分の核がしっかりある所が良いなって思ってたから。」

 私は肖子のこういう優しい所が好きだ。素直に喜ばなかった私に非があるのに、このままだと自分を責めかねないのでフォローの言葉を口にする。

「すごい嬉しかったから大丈夫!ありがとう。」

 私の言葉を聞いて安心したらしく、肖子はまた軽快なテンポで語り出した。

「この曲に限った事じゃないけどさ、彼の曲って変に励ましたり、人生ってこんなにも素晴らしいものなんだよって押し付けを歌わない所が良いよね。なんとなくだけど...前を歩いたり、後ろから背中を押したりするんじゃなくて隣を一緒に歩いてくれてる感じがするよね。」

 この肖子の意見には凄く共感する。だからこそ彼の音楽が、言葉が私は好きなのだ。どれだけ前向きで明るい曲を聞いたって前に進もうと頑張れない時だってある。そんなに強い人にはなれない。だけど、進めないなら進まなくていいし進めるようになるまで待ってくれる。そんな歌があっても良いよね。

「やっぱりそう思うよね!本当に共感しかないよ。」

 窮屈で仕方がない学校生活の中で唯一のオアシス。昼休みの空き教室で肖子と推しの尊さを再認識し合っているこの時間が大好きだ。

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