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⼤学⽣になった後、僕はバイトの⾯接に落ち続けた。
職は選ばなかった。求⼈雑誌に載った住所に⽚はしから応募⽤紙を送り、連⽇⾯接を受けに外出し、⼭ほどの不合格通知を受け取った。
三⼗四個⽬の⾯接(ビルの清掃業の仕事だった)に落ちた後、気晴らしに家のすぐ⽬の前にあった喫茶店でコーヒーを飲んだ。
古びた外観にシンプルな内装の店だった。新しい感じも古い感じもしない、時代の流れと切り離されたような。座ったテーブルからは当たり前といったふうに、⽊材の古びた匂いがした。
コーヒー⼀杯、ミルクを少々。ついでに野菜サンドを⼀つ。できればマスタード⼊り。店員は素早く注⽂をとり、熟練のウェイトレスとして⼿早く⽴ち去った。注⽂を待っている間、僕は⼿持ち無沙汰なヤギみたいに窓の外を眺めていた。なかなかいい昼下がりに⾒えた。何も考えずにぼんやりとしていても許されるような感じの、融和的な午後だった。
たくさんな⼈間が窓の外を通っていった。シルクハットに上等のスーツを着た散歩中の⽼⼈、⾵船を抱えたデパート帰りの主婦、三⼈連れの学⽣。果てはドレスを着た⼥なんかもいた。映画の中でしか⾒ないような古めかしくて豪華なドレスだった。そのドレスはその⼥性に⾒事に似合っていた。
運ばれてきた野菜サンドは美味しかった。コーヒーも不味くはなかった。その後もしばらくは窓の外を眺めていたが、じきに飽きて家に帰った。
そうして1日が終わり、その後僕は倉庫整理の短期バイトに落ちた。電話が一本がかかってきて、顔も知らない電話口の人間が三十五回目の励ましの言葉を述べた。
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