猫目

sir.ルンバ

プロローグ


「夜、フレンチがいい」


 まるで猫みたいに寝転んだ彼女がポツリと呟いた。


「伊勢えび、美味しそう」


 その⾔葉はしばらくの間、そこら辺の空間を埃みたいに浮遊していた。


「ちなみに今の空腹度は?」僕が⾔った

「⼆⼗四点、くらい。今なら⻑靴の底だって⻝べれる」


 彼⼥はキッチンの冷蔵庫を漁りながら⾔った。野良猫の親戚みたいに⾒えた。そして、ビールを⼆缶もって隣に来ると真顔でこっちを⾒て⾔った。


「飲まない?」


 空腹にビールとはいかがなものか。黙ったままビールを貰った。引き上げたプルタブは、珍しく開けた拍⼦に折れた。 


かこり、ぱきり。


 彼⼥はまたソファに戻って、のんびりと猫を撫でていた。その猫もじきに撫でられることに飽きて、どこかに消え去ってしまった。

 猫が去っても彼⼥はスマホの画⾯を熱⼼に眺めていた。ターコイズ色の虹彩がその光吸収してきらきらと輝いている。薄暗い部屋の中で瞳孔がやけに細⻑く収縮していた。僕はそれをうとうとと眠気にまみれながら眺めた。


 彼⼥は、俗に⾔う瞬間移動ができた。彼⼥はそれを瞬間移動と呼ぶのが嫌いで、転換と呼んでいた。


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