第118話 突然ですが
118.突然ですが
突然ですが、お引越しする事になりました。
「ここはどうですか?」
「んー、広すぎないかな?」
「そんな事無いと思いますが」
「ふむー、まぁ折角引っ越すなら一度大きな家に住んでみてもいいか」
ヘレナと一緒に引っ越し先を探している、条件としては都心まで自動運転のタクシーで30分ぐらいの距離で一軒家という感じだ。
部屋数とか大きさに関してはあまりこだわりはないが一度ぐらい大きな家に住んでみたいとは思う。
使い道のないお金なら10億以上ある、いっその事家を建てるか?
気になっている人もいるかもしれないから、なぜ引っ越す事になったのかの説明をしたいと思う。
大きな理由は一つあり、畑だ。
いちいち言うまでもないから省略しているがちゃんとほぼ毎日畑の世話はしている。
基本的には機械がやってくれるのだが細かい部分ではどうしても人の手を使うしかない場所と時がある。
ダンジョンで何日か過ごしたことがあると思うがその時は畑の世話が機械だけで済む時期だったりの合間をぬって遠征していた。
しかしこれから先の事を考えるとどうしても畑の世話というのは手間になってくる。
色々と世話してくれて指導もしてくれたお爺ちゃんには悪いと思うがそういう話し合いはきちんとしたので問題ない。納得してくれたかは分からないがお爺ちゃんからは俺のやりたい事をするのに畑が障害になるならと理解してくれた。
その代わりと言っては何だが家を売却するのではなく賃貸という事で貸し出す事にした。
維持費などがかかってしまうが問題ないほどには稼いでいる。
因みに家を借りる予定の人って言うのが既に決定してたりする、今の時代でも田舎に畑を耕したりしてスローライフを送りたいと望む人が多いのだ。
実際には機械がほとんどしてくれるわけだがそれでもこの風景だとか何かしら憧れる部分があるんだろう。
ここで育った俺からすれば何がいいのか分からないが、それは持つ者の意見というやつで持たざる者からすれば羨ましい物なのだ。
「家を建てるのは難しそうだなぁ、今ある家を一度壊してとかなら行けそうだけれど。家の建っていない場所というのがもうないんだな」
ヘレナに調べてもらっている情報を眺めていくが今の時代どこも土地が空いていない。
土地を買い取って今建っている家を一度壊して、建て直すとかならいけそうだけどどれぐらい時間がかかりそうなのかがわからない。
それと、都心までタクシーで30分というのが条件に入っていると思うが理由としては交通の便を考えた結果だ。
自動運転のタクシーは確かに便利なのだが、それは専用道路が繋がっていた場合に限る。
都心の方が道路が多く繋がっており便利だ、それは自動運転のタクシーを使う際の専用道路もしかり、他の公共交通機関でも同じでなんだかんだ都心に近いほうが便利なのだ。
かといって都心に住むのは人が多すぎて疲れる、そこで少し離れた場所を探している。
「取り合えず明日はいくつか内見していこうか」
「はい」
◇ ◇ ◇ ◇
「結構いい感じだね」
広々とした40畳ほどのリビングにアイランドキッチンって言うんだっけ?独立したキッチンが一緒に置いてある。
窓も大きく外は庭になっており解放感がある、外壁は背が高く家の中を見られる心配もなさそうだ。
部屋の数は8つにトイレが3つほどついており、お風呂も独立したのが2つと主寝室らしき場所に備え付けられたのが1つ。
「いい感じだけどこれだと広すぎるか………?」
大きい家に一度ぐらい住んでみたいと考えてはみたけれど、よくよく考えればこんなに広い家に住む必要なんてないんだよなって冷静になってきた。
「まぁ一応他の候補を見て行こうか」
「はい」
メニューを開いて別のワールドへのポータルを置いてそこへ入っていく、一瞬読み込みの為視点が暗転するがすぐに明るくなり次に予定していた部屋へと切り替わる。
今の時代だと内見などは全て仮想空間で行われる、予約することで部屋のコードが貰えてそこへ見に行くのだ。
この方法だと現地に行かなくてもちゃんと自分の眼で部屋を隅々まで見ることが出来る、中には現実とは違う部屋を作っている不動産やがいるらしいがそういったことをするところは選ばないようにヘレナと相談して決めている。
ネットでの評判とか色々と調べた。
俺の横には同じ様に仮想空間へと入る為の機械を取り付けたヘレナがいる。
ヘレナはAIだし直接インターネットへと接続できそうなものだがそれは試せない、倫理的にとかも理由だが一番の理由は法律で禁止されているからだ。
たしかAIとかなんかそう言うのは直接インターネットへと接続することを禁ずるとかなんとか、ほんとはもっと細かいアレだったとおもうが大まかに言ってしまえばそんな感じだったと思う。
随分とふわっとしか知らないがつなげちゃダメって言うのだけ分かってればいいのでこれでいいのだ。
次にやって来た家はさっきよりさらに大きく入口である玄関から広い、靴の収納棚の横に扉がありそこがちょっとしたウォークインクローゼットになっており色々と物を入れることが出来るようになっている。
玄関を上がるとすぐにリビングに繋がっておりそこから各部屋に繋がる廊下が伸びておりさらには2階へと階段もある。
「広いなぁ」
リビングは吹き抜けになっており天井が高いので解放感がある、明かりも自然光が入るようになっておりこの感じで日が入るなら夕方になるまで明かりはつけなくてもよさそうに見える。
まぁここは仮想空間だし雰囲気を出すために演出を加えてちょっとはいい感じにしていると思うが現実とそこまで差異はないはずだ。
「でもやっぱりこれだけ部屋があっても使い道なんて思いつかないな」
全部の部屋を見て回る、それぞれ何かしらテーマがあるのかまとまりのある部屋になっており雰囲気はいい感じだ。
だがやはりこれだけ部屋があっても使い道を思いつかない。
今の家でも基本リビングでのんびりするぐらいで自室には寝る時ぐらいしかいかないし、何かするときは【野営地】か【格納庫】へと赴く事の方が多い。
そう考えるとやっぱ部屋は沢山必要なさそうに感じるが………かといって部屋数が少ないとなると安い家かアパートとかになるんだろうけれど、それだと今度は清潔感とかセキュリティが気になる。
1部屋だけのめちゃくちゃ広い家とか無い物だろうか?もしかして俺が望んでいるのって倉庫みたいなところってこと………?
その後もいくつか部屋を見てまわった、そのどれもがいい家だったし住んでみたいなと思ったがそれと同時に持て余すんだろうなぁという思いもあった。
「住む家を決めるのって意外と難しいんだなぁ」
求めるものがすべてそろった家を見つけるのは奇跡でも起きないと無理かもしれないな。
って言うかなんでこういう大きな家って大体が山の方にあるんだろうか?何か意味がありそうだけれど後で調べてみるか。
「ヘレナはどこかよさそうな家とかあった?」
「そうですね………今までみた中だとここが一番いいんじゃないでしょうか?」
「ここか」
そう言ってヘレナが見せてきたのは候補に挙がっていた中では一番条件を満たしている所だった。
都心まで自動運転のタクシーで30分ほどの一軒家で、部屋数が5つと比較的少なく、その代わりリビングが候補の中で一番広いタイプ。駐車場も付いているが車を買う予定は無いので無用の長物になるな。
それに大き目の家だが山の方ではなく平地の方に建っている家だ。
外は高い塀で囲まれており更にいくつか魔道具でセキュリティ強化しているようだ。
説明を見てみると元は高ランクの探索者が住んでいたところの様で、住んでみたはいい物の探索に忙しく帰れることがほぼ無くて持っている意味が無いと思い売りに出したようだ。
そのおかげなのかほぼ新築みたいな売り出し方をしている。
「確かにここに出ている情報が正しいならいい所かもなぁ」
家を完全に手放すみたいで売値も相当な物だ。その価格8億円。
立地と家の規模に設備を考えれば妥当な所なのかもしれない、多分?家とか買ったことないし正直わからないけれども。
「もう一度見に行こうか、確かワールドのコードは2、3日使えるはずだから」
「はい」
ヘレナが提案してくれた家のワールドへと仮想空間を使い行くことにする。
「説明を見て納得したけど、確かに言われてみれば探索者の住んでそうな家だな」
玄関に入ってすぐ簡易シャワーが取り付けられていたり、なぜかやたらと広かったり。
廊下も大きな荷物を運ぶ前提で作られているとしか思えないほど幅がとってある。
リビングもそう考えると仲間内で集まる事を考えて広く作ってあるのだろう。
ヘレナと一緒にもう一度各部屋を、今度はよりじっくり見ていく。
「個室も狭いってわけでもないね」
「はい」
一番小さな部屋で10畳、大きな部屋だと20畳ほどの広さがある。
「立地もいい感じだね」
仮想空間内にこの家が建っている場所の地図を出し周りを見ていく、主要道路はすぐそばを通っており近くに色々なお店もある。
「これだけいい条件だとすぐに売れそうな物なんだけれどなんで今まで残ってたんだろう?いわくつきとかじゃないよな?」
「どうやら売り出したのが昨日だったみたいですね」
「昨日?」
「はい」
「つまり俺はドンピシャで内見の予約入れたって事?」
「そのようですね」
「これはもうここを買えって事だろう、買うか」
「はい」
運命だとかそう言うのは信じる方ではないがここまでお膳立てされて買わないという選択肢はない。
「まぁ、そうはいっても一度ちゃんと自分の眼で見ないとな。購入予定だと言う事だけ言って実際に見に行くとするか」
「そうですね」
流石に実際に見ずに買うレベルの金額ではないことぐらいはわかる、流石にね?不動産屋にメール入れておくか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます