第117話 【守機】
117.【守機】
じめじめとした薄暗い洞窟、壁や天井に地面までもが赤銅色で一色だ。
通路自体は広く天井まで8メートルほどもあり幅も人が6人ぐらいは横並びになっても問題ないぐらいには広い。
「目線が高いと何だか変な感じだな、ヘレナのつむじが見える」
「見ないでください」
そう言うとヘレナはつむじを両手で隠してしまった。
今俺達がいるのは洞窟型のAランクダンジョン【ステイルの洞穴】だ。ここに来たのは【守機】の使用感を確かめるためともう一つ、鉱石などの素材を手に入れる為だ。
鉱石は単純にこれから先、色々と作るのなら素材がいるだろうという事でとりに来た。買えば済む話だが今は急いでないし無駄にお金を使う必要もない。
「これって採取ポイントかな?」
「そのようですね」
洞窟の壁にきらりと光る銀色の物体、鉱石系の採取ポイントだ。
【格納庫】から作業員ロボットを呼び出し採取してもらう。
「敵も来たか」
作業員ロボットが出す採掘音に気づいたのか敵が来たことを【気配感知】が教えてくれる。
洞窟の奥からやってきたのはここのダンジョン名にもなっている〝ステイル〟という名前のトカゲだ。見た目はアルマジロトカゲという種類のやつに似ていてとげとげとした外殻が特徴的な魔物だ。
見た目がかっこよく人気のある魔物でグッズにもなった事がある。
「早速試す時が来たか」
そう言いつつ【守機】で射撃体勢へと移る、腰を気持ち落としてどっしりと構える感じで体勢を整えた後、右肩に取り付けた〝迫撃砲〟を収納状態から前へと伸ばし狙いを定める。
ドンッという衝撃と音が響きわずかに体が後ろへと流れる。
射撃体勢はとっていたがそれでもわずかに衝撃を受け止めきれなかったみたいだ。
だがその分の威力は言わずもがな〝迫撃砲〟を食らったステイルは5メートルはある全長の半分ほどが吹き飛んでいる。
威力は申し分ないがこれじゃぁ素材としてもGPに換えるにしてもダメだな。
魔物に合わせて丁度いい威力の武器を探すのが意外と大変だ。
「ヘレナ、〝対物ライフル〟へと換装を頼む」
「了解」
ヘレナに頼み装備を変えていく、正直〝対物ライフル〟でも威力が高すぎる気がしないでもないが一つずつ試していくしかない。
「採掘の方はもう終わりそう?」
「はい、作業はおよそ8割ほど終わっています」
「なら残りも任せて休憩するか」
◇ ◇ ◇ ◇
【ステイルの洞穴】に入ってから3時間ほど、あれからいくつかの採取ポイントで鉱石を手に入れて【守機】の実戦での動きなどもいい感じになってきた頃だ。
武器は色々と試したが結局〝対物ライフル〟が有効だった。
前々から分かっていたことだがやはり爆発する系の攻撃だとGPにするにも素材として持ち帰るにしてもダメになる確率が高い。
後は【魔法転換:銃弾】で雷か氷だと一番いいかもしれない。
「ん?戦闘音が聞こえる………こんなところに他の人がいるのか」
遠くの方から誰かが戦っているような音が聞こえてくる。
Aランクダンジョンで人に合うとは思わなかったな。
日本にはAランク探索者は1000人ちょっといると聞いたことがある。
Aランク1000人ちょっとに対してAランクダンジョンは84個ある、こう聞くと被る事が多そうに聞こえそうだが実際にはそんなことは無い。
84個ある内でも稼げるダンジョンと稼げないダンジョンがあるし、どこに住んでいるかで向かう場所も変わるし、毎日ダンジョンにみんなが潜るわけじゃない。
同じダンジョンでも向かう階層が同じとも限らないし。
色んな条件を合わせるとAランクダンジョンが84個しかなくてもそうそう被る事は無い。
因みに今いる【ステイルの洞穴】は人気的には下の方のダンジョンになる。理由としては大してうまみの無いダンジョンだからだ。
手に入る鉱石も市場的には希少な物にはなるがもっと需要があって高価な物が出るダンジョンが他にあるし。
出てくる魔物の素材にしても多少なりともお金にはなるがこれもまた他と比べるとそこまでじゃない。
そんな理由でここは人があまりいない。
「みんな見ててよ!今度こそは手懐けて見せるんだから!」
聞こえてくる声から恐らく女性、しかも一人なのに喋っている様子からダンジョン配信をしている模様。
そして手懐けるという言葉から分かるのは【テイム】系のスキルを持っているであろうという事。
ダンジョン配信では他の人に対してモザイク処理が自動で入るので映り込みの心配はないが出来れば近づきたくないな。
「あー!!また失敗したぁ………なんでぇ?上手くいかないんだろ?」
どうやら何度か挑戦しているが上手くいっていないようだ。
今いる場所は一本道で配信者の人は前にいるので避ける事が出来ない、どうしたものか。
「えっ後ろ?あっみんなごめんねちょっとふた絵にして休憩にします!また少し後でね~!」
配信を一度ミュートにしたのか、そんな感じの事を言っている。一応彼女とは普通だと声が聞こえない程度には離れていたのだが存在に気づかれてしまったようだ。
相手の声が聞こえているのは【守機】には集音装置がついているから、遠くの音でも聞こえる。
話しの流れ的にこっちに来そうなのでヘレナには【野営地】へと急いで隠れてもらう。
隠れる必要もない気もするが相手がどんなスキルを持っているか分からなくてヘレナが人じゃないとどこで気づかれるか分からないから可能性を無くしたい。
「こんにちわ~!配信は待機状態にしたから映り込みとかは大丈夫だよ、邪魔してごめんね!」
そう言いながら大きく手を振り彼女は近づいてきたのでこちらもゆっくり歩きながら近づいていく。
「こんにちは、こちらこそ配信の邪魔してしまったみたいでごめんなさい」
「あはは!大丈夫だよ~他の人を映さないようにするのは配信者としてのマナーだからね!」
彼女が善良そうな人でよかった、配信者の中には性格に難のある人が一定数いるからな。
「じゃぁ俺はすぐに消えるんで配信頑張ってください」
「は~い、ありがとうね~!って、ちょっとまったまった!」
「はい?」
「自己紹介ぐらいさせてよ!私の名前は天野リオ、Aランク探索者でDライバーをしてるよ。よかったらチャンネル登録してね!」
「あぁ………神薙響です、ただの探索者ですよろしくお願いします」
「神薙くんかぁ~………ん?もしかして君って最近Aランクになったばかりの話題の子だったりする!?」
「話題?かどうかはわからないけれど、最近Aランクになったばかりですけど。どうして知っているんですか?」
「あ~そっか最近なったばかりなら知らないよね。実はAランク探索者になるとAランク同士顔を合わせる機会があるのと情報アクセスの権限が増えるから調べようと思えば同じAランクどうし名前を調べる事が出来るんだよ!」
「へぇ、そんな事が出来るんですね」
「うん、そろそろまた集まる時期だと思うからその内連絡がダンジョン協会から来ると思うよ」
「なるほど?じゃぁまた会う事があるかもしれませんね」
「そうだね!その時はよろしくね?」
「はい、それじゃぁこれ以上は悪いのでそろそろ行きますね」
「そうだね、引き留めてごめんね?よかったら配信も見てね~!」
挨拶だけしてすぐにはなれる【気配感知】にも引っかからなくなったぐらい遠くにいってやっとヘレナを呼び出した。
「まさか配信者の人と出会うとはなぁ」
「天野リオさんですか、彼女の登録者数は48万人、平均視聴者数は4000人ほどと人気がある方のようですね」
「結構有名な人だったのかな、そういえば他のAランクの人の事も調べられるとか言ってたな」
「はい、どうやらダンジョン協会へとアクセスすれば調べることが出来るようですが分かるのは名前と性別ぐらいで他に情報らしい物はありませんね」
「ふむ、それを調べた所でどうなんだって感じだな」
「もしかしたら何か別の情報があるかもしれません、少し調べてみます」
ものすごく今更だが天野さんと話している時、彼女の後ろにはテイムモンスターっぽい狼がずっとこちらを見ていて正直怖かった。
体高3メートルはありそうな狼だから相当つよい種類のやつなのだろう。
なんでそんなのスルーしていたんだよって話しだが、天野さんも俺のロボットアーマーを見てもスルーしていたのでこういうのって言わないほうがいいのかなって思って何も言えなかった。
もしかしたら探索者同士の暗黙の了解的なのがあるかもしれないと思ったからだ。
「気を取り直してもうちょっと奥まで行ってきりのいい所で帰るか」
「はい」
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