第114話 【月面】ダンジョン #4

114.【月面】ダンジョン #4








「はぁ………やだなぁ」


【月面】ダンジョン6日目、俺とヘレナがいるのはあの洞窟だ。


あの日、洞窟を見つけてから中へと入って少し探索した後出てくる魔物がバイオなハザードっぽい見た目の気持ち悪いやつだったので結局は帰る事にして一度基地までもどったのだ。


その後の事だ、俺は【月面】ダンジョンの管理者である花菱さんへと今回の事を報告した。

いつもの普通のダンジョンなら報告義務なんて無いのだがここはまだ調査中のダンジョンで利用するにあたってダンジョンのレポート提出が義務になっていた。


ヘレナに【月面】ダンジョンで過ごした4日間の事をレポートにして提出したのだがどうやら洞窟は新発見だったらしい、花菱さんにより詳細なレポートを出してほしいと言われてヘレナに任せた。


詳細なレポートと言っても俺達に分かっている事なんてほんの少しだ、洞窟内が人工的な造りになっていて出てくる魔物が気持ちの悪いアレって事ぐらい。

だから当然と言えばそれまでなのだが花菱さんは調査の依頼をお願いしてきた。



Aランク依頼:《【月面】ダンジョンで発見された洞窟内の調査》

【月面】ダンジョンで発見された洞窟内の調査をお願いします。

調査期間は1日から3日の間に可能な限り奥まで、ダンジョン協会から探索に必要と思われる機材の貸し出しをします。

また、調査内容は機密扱いとなるため魔法契約を行います。


報酬:6000万



実際にはもっと細かいが大まかにはこんな感じの依頼内容になる。

最初はこの依頼を受ける気がなかったのだが最終的には受ける事にした、渋々だが。


依頼を受ける事に決めたのは調査の中断などの判断を俺に一任すると言う事、あくまで無理してまで調査しなくてもいいという言質をとったからだ。他にも戦利品は全て俺の物にしていいなどもあった。

ダンジョン協会とは持ちつ持たれつな関係だから多少いやな依頼でも受けなくちゃいけないのは仕方ない。


因みにこういった場合、ファンタジー世界にある冒険者ギルドが出てくる物語などでは強制依頼とか言うのが登場する事があるが現実にはそんなものは存在しない。

多少強めにお願いはされるだろうが結局は強制力などはない。


断れないような雰囲気にして実質強制依頼みたいなのもない、なぜならそうやって依頼を受けさせたとしてもその後に痛いしっぺ返しがくるからだ。

今の時代どこから情報が洩れるかわからない、不用意な行動はたとえダンジョン協会でも起こせない。



まぁそんなわけで依頼を受ける事にして洞窟まで戻って来たってわけだ。


「ヘレナ、準備はどう?」


「はい、全ての準備が整いました」


ヘレナへと声をかけ振り返ると今回の調査で使うための機材が準備されていた。

今回使うのは撮影用のドローンカメラ、世の中に出ているドローンカメラよりもさらに高性能な物でダンジョン協会技術部の作り出した物らしい。


どこがどう従来の物とは違うのか分からないがとにかく色々と凄いらしい。


ドローンの映像は基地へと繋がっておりそこからさらに地球へと繋がっていて研究員の人が見ているとのことだ、そこで魔法契約だがいつもは相手への制約が多い契約だったが今回は違う、逆に俺に対して機密情報なので話さないようにとの魔法契約になる。


そもそも今回映像を見る事になる人やその他の人も仕事柄魔法契約で既に色々と契約を結んでいるらしいのだ、だから今回ばかりは俺が話さないように魔法契約を結ぶことになった。


「それじゃぁ行こうか」


「はい」


他にもダンジョン協会からは色々と役に立ちそうなアイテムを渡されたが多分使う事は無いだろうな。



【赤雷】を前に配置して、洞窟に入って暫く歩くと前回もみた人工的なタイル張りの洞窟が見えてきた。クモ型偵察機を呼び出し少し先を見に行ってもらう、奥まで行ってもらわないのは安易に壊したくないからだ、クモ型の偵察機は製作コストが低くわりと雑に扱えるのだがそれでもわざわざ壊す必要は無い。


「早速来たか………」


【気配感知】に魔物がかかる、少し憂鬱な気分になりながらもアサルトライフル型の光線銃を構えて迎撃準備を始める。


「マスター、この間と同じ魔物です」


「了解」


偵察機からの映像を確認したヘレナから報告が入る。


この間のと同じか………速攻で倒そう。


【赤雷】の脚の陰に隠れて銃を構える、すぐに通路の奥から前回倒した魔物が見えてきたので撃つ。


「ふむ、1匹だけなら余裕だな」


通路の奥のほうで動かなくなった魔物を見てそう呟く。

取り合えずいつも通りドローンを呼び出して魔物を回収してもらう。


「うへぇやっぱり気持ち悪い見た目だな」


肌の下を剥き出しにしたような赤黒い見た目は嫌悪感が強いがギリギリ、ほんっっとうにギリギリなんとか耐えれるので今回の為に貸し出された収納袋へと仕舞っておく。

これはダンジョン協会へと引き渡す、持っててもしょうがないからね。GPは惜しいけど無理してここで稼ぐ必要もない。


魔物を収納袋へと入れたらまた進みだす。






◇  ◇  ◇  ◇






「ここも何もないか」


【月面】ダンジョンの洞窟調査を始めて6時間ほどが経った、道中に出てくる魔物はあの気持ち悪い四足歩行のやつと肉団子みたいなやつと時々壁一面に広がる赤黒い肉壁だ。


何て言うか全体的にグロい………唯一洞窟内が謎の光源で明るい事だけが救いか。

四方のタイルが発光しているのか分からないが普通に明かりのついた部屋の中ぐらい明るい。



今確認していたのは通路に時々ある扉の無い8畳程の部屋だ、それが所々にあるのだが中はがらんどうだ。


宝箱的な物も無くここまで戦利品と言えば気持ち悪い肉塊ぐらいだ。


「マスター、この先の部屋は今までに比べて広いようです」


「なら次はそこに行こうか」


「はい」


広い部屋なら何かあるかもしれない。


【赤雷】を先頭にヘレナが見つけた部屋へと進んでいく。


「何だあれ?」


たどり着いた部屋はかなり広い【不壊】を出しても十分動き回れるほどには広い部屋だ、そんな部屋の中央に黒いモノリスが建っている。


「めちゃくちゃ怪しいけど調べないわけにもいかないか」


慎重に部屋の中へと入りモノリスへと近づいていく。


黒いモノリスは15メートルほどもありかなり巨大だ、しかも何か文字らしき物が彫ってある。


ダンジョン協会から貸し出された撮影用のドローンがモノリスへと飛んで行き文字を調べるようにゆっくり浮遊する。


まぁ明らかになにかありそうだし調べたいよね、問題は時間がかかりそうなことだ。


あまり長くならないといいな。






◇  ◇  ◇  ◇






「やっと終わったか」


1時間ぐらい経っただろうか、どうやら撮影が終わったのかドローンが戻ってきた。


「これ以上奥も無いみたいだし帰るか」


「はい」


1時間もの間ただ待っていたわけじゃない、偵察機を使って他に何かないか調べていた。

結果分かったのはこの部屋には入口とモノリス以外に何もない事と、ここ以外の場所の通路も後は入口へと戻る道になっているようだという事。


思ったより洞窟は狭かったようで踏破するまで1日かからなかった。

まぁ元々何日かかるか分からないから1日から3日で時間をとっていたのだが。


果たして本当に調査になったのか不安だが俺が気にしてもしょうがない事だし楽観的にいこう。


因みにあのいかにも怪しいモノリスには触ったりしません、そこまでバカじゃない。

明らかになにかありそうだからこそ不用意に触らない、当たり前の事だ。


なので後は帰るだけ、そう思って入ってきた入口へと戻ろうと────


「ヘレナ!!」


叫ぶのと同時に【赤雷】シリーズを全て呼び出す。


「敵です!」


部屋の外へと出ようとした瞬間、入口が突然閉まり続いてガシャン!という音が連続して聞こえてくる。


「明らかに怪しいから無視したのに結局意味ないのかよ!」


部屋の中央に建つモノリスが怪しく光り、その奥には地面から白い筒のような物がいくつも飛び出してきている。

その大きさは大小さまざまだが一番でかいのは【不壊】以上ありそうだ。


どう見ても出てくるのは道中にもいた魔物だろう、なら先手必勝だ。


「ヘレナ!殲滅だ!」


「はい」


【赤雷】シリーズの内3体だけは光線銃へと武器を換装しているが他のはまだいつもの装備のままだ、かなり戦いにくいだろうがそれでもやってもらうしかない。


【格納庫】から【不壊】を呼び出す、こちらも装備を変更していないから銃火器は使えない。


戦力を呼び出し終わったら次は俺も戦闘に加わる、既にヘレナと【赤雷】シリーズは戦い始めている。


白い筒から出てきたのはやはり道中にも見た敵だ、四足歩行のやつが50体以上に、肉団子っぽいやつも同じぐらいいる様に見える。


そして問題はひときわ大きい【不壊】と同じような大きさのやつ、見た目は肉塊だがその体からいくつもの肉の触手が生えている。


「【不壊】はあの一番大きいやつを、その間に他の雑魚を殲滅するぞ!」


「了解」


【不壊】が大きな肉塊に突撃するのを横目にアサルトライフル型の光線銃で魔物を撃ち始める、比較的楽に倒せるがこれだけ数が揃うと中々きついものがある。


「数が多いっ!」


倒しても倒してもその奥からさらに魔物が現れてくる。このままじゃ接近されてしまう。


【格納庫】からバイクを呼び出し乗り込む、そしてそのまま空中へと飛び敵の攻撃が届かない場所へと逃げる。


上空から手榴弾などを敵の密集している場所へと投げ込む、そして撃つ、投げ込む、投げ込む、撃つ。


卑怯というなかれ、ここは現実なんだいくらでも安全マージンをとって一方的に倒させてもらう。


ある程度地上の魔物を倒したら残りはヘレナと【赤雷】シリーズに任せて俺はでかいのを倒しに行く。


敵はでかいので遠くからでも十分当たりそうだしこのまま撃つ。


「ん?効いてない?」


大きな肉塊に光線銃のビームがあたるが肉片が少し飛び散る程度でダメージになっているようには見えない。


火力が足りないか。

反動が怖いがそんな事言ってられなさそうだ。


アサルトライフル型光線銃を【空間庫】へと仕舞い、いつもの武器を取り出す。弾は〝徹甲榴弾〟と〝炸裂弾〟どちらも1マガジン使いより効果のありそうな方を使う。


まずは〝徹甲榴弾〟を使用する、こちらは爆発で大きく体がえぐられているのが見える。


次に〝炸裂弾〟を使用する、こちらはダメージはありそうなものの損壊的にはそこまでだ。


というわけで〝徹甲榴弾〟を使用することにする。



「ヘレナ!【格納庫】内でドローンへ爆発物を積載して空中から爆撃だ!」


「了解」


〝徹甲榴弾〟を撃ちながらもヘレナへと指示をだし少し待つ、すると【格納庫】から次々とドローンが飛び出してきて肉塊の上へと陣取りそこから爆撃を開始する。


「いい感じだが、どこまで削れば倒せるんだあれ」


今のところ一方的に攻撃できている、肉塊から触手が生えているが細く【不壊】に絡む程度でダメージにはなっていないようだ。


問題はあの肉塊がどこまで破壊すれば動かなくなるかだ、普通の獣のように分かりやすい弱点があるようには見えないし。


「マスター、対象の沈黙を確認。どうやら倒せたようです」


「ん?アレ?もう?」


「はい」


ヘレナに言われて肉塊を見ると触手がしなしなになっており動きも止まっている、どうやら考え事しながら攻撃を加えている間に倒したようだ。

何と言うかあっけなさすぎて消化不良だが、まぁいいか。


そしていつの間にか雑魚の魔物の方も殲滅しおわっていたようで部屋の中が静かになっている。


「終わってみれば楽勝だったな」


いきなりで焦ったが戦ってみればそんなに強くなかった、数が多いのが少し危なかったぐらいだ。




「それじゃぁ色々と片づけるか」


「はい」


倒すだけなら楽だがその後この数を回収するのか、貸し出された収納袋に全部はいるかな………?花菱さんあたりに連絡をとって回収班を要請するべきか?









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