第111話 【月面】

111.【月面】








あ゛ぁ~これめっちゃ楽だなぁ、すごいふわふわして楽しい。


月に建てられた基地へとやって来てから2日が経った、今現在俺は広い部屋の中でふわふわと空中を漂っていた。

ここは月の基地内にある無重力を人工的に作り出した部屋で無重力空間で何がどう作用するかという研究のために最新の技術である反重力装置が取り付けられたフロアにある1つの部屋だ。


月でしなくても今までやって来たように宇宙空間にある基地があるじゃないかとおもうかもしれないがわざわざ月で行っているのは反重力装置の実験も兼ねているからだ。

地球の重力を打ち消すほどの反重力はまだ無理らしく月で使用しているみたいだ、いつか地球でも無重力空間を作るために日々研究が進んでいる。


本来ならここは研究施設なので使用するのは基本的にダメなのだがちょっと交渉して動力源である【月面】ダンジョンで取れる魔石を1年分持ってくる事で使用許可を貰えた。

1年分と言ってもそこまで数が必要になるわけじゃなく【月面】ダンジョンで出てくる一番雑魚のやつだと50個ぐらい、少し強めなのだと12個、ボス級のだと1個でいいらしい。



そんなわけで俺は今、無重力空間を漂って遊んでいるわけなんだけれど。

そろそろダンジョンに行かないとなぁと思いつつもここには面白い物が多すぎて困る。

この後は無重力プールにも行ってみるつもりだ。






◇  ◇  ◇  ◇






「さて、行くかー」


3日目、流石に当初の目的である【月面】ダンジョンへと向かう事にした。

装備を点検して足りない物がないかも確認していく、前日にちゃんと確認は済ませてあるがダンジョンへと入る前にもう一度確認するのはもはや習慣だ。


『次の角を右です』


自動音声で案内してくれるホログラムのアバターに従って歩いていく、向かっているのは【月面】ダンジョンの入り口だ。

ここでは生身の人間は俺を含めて数人いるだけで他は全て遠隔操作で地球から操作している人ばかりだ。

その数人の生身の人間もこの施設の広さとここでの行動から出会う事は無い。


出会う事は無いけど一応生身の人もいるんだよ、ということを教えてもらった。


月の施設は全体的に無機質で映画とかで表現される宇宙船の中とかそう言うのに近い。

用意された自室も白と灰色で統一されていて家具なども無くかなり質素だった。


因みに食事は地球と変わらない普通な感じだ、和食も中華もイタリアンもその他にも色々とある。

所謂宇宙食と言われる感じの物も用意は出来るらしいが、あえてそちらを選ぶ事も無いだろう。



『【月面】ダンジョンフロアです』


「おぉー……えっ!?あれ大丈夫なのか………?」


エレベーターのドアが開くとそこは空港のホールのように天井が凄く高い建物でフロア1つが丸ごと存在していた、さらにエレベーターの正面には大きな門の枠だけが存在していてその奥、月面がそのまま見えている。


「どうなってるんだこれ?」


近づいてみてみるがガラスがあるわけでもなく、何か特殊な膜があるようにも見えない。本当にただ門の枠だけが壁に存在していて扉が無くそのまま奥の月面が見える。


『こちらが【月面】ダンジョンの入り口になります』


「ここがダンジョンの入り口なの?どう見ても普通に外にしか見えないけど」


月面へと地続きにしか見えない。


「今更だけど【月面】ダンジョンは空気とかどうなっているんだろう?このままいって平気なのかな?」


本当に今更だけど【月面】ダンジョンって見た目が完全に宇宙空間なんだよな、そんな場所にこのまま行っても平気なんだろうか?


『【月面】ダンジョンでは酸素などが存在している事を確認しています、ですがダンジョン内全てを調査し終わっているわけではありませんもしかしたらどこかに無酸素状態の場所があるかもしれません。そこでこちらをどうぞ酸素ボンベです』


頭にトレイを乗せた腰ぐらいまでしかないロボットが何か物を持ってきた。


「これが酸素ボンベ?」


ロボットが持ってきたのはメカメカしいマスクだ。


『はい、マスク型酸素ボンベです。こちらは使用すると顔全体を覆うように展開し、そこから3日間使用可能です』


「ふぅん、使っていい物なの?」


『はい、予備を含めて3つお持ちになってください』


「ありがとう、それじゃぁ使わせてもらうよ」


ロボットのトレイからマスク型酸素ボンベを言われた通り予備を含めて3つ受け取る。

マスク型酸素ボンベは耳にかける部分が無く口元お覆う部分しかない。


『それでは、お気をつけて行ってらっしゃいませ』


「はい、行ってきます」


受け取ったマスクは【空間庫】に入れておいて、【月面】ダンジョンへと入る。


「何だかダンジョンに来たって感じがしないけど、あれを見たところやっぱりここはダンジョンなんだよな」


後ろを振り返ると先ほどまでいた施設が門の奥に見えるがその周りには施設そのものの外壁が見えない。


「ヘレナ、ちゃんと空気がある?」


「はい、酸素レベルは地球と変わりありません。防具の空気を外と循環させます」


【格納庫】を開きヘレナ専用人型機と【赤雷】シリーズの5体を呼び出しておき、ついでにヘレナにダンジョン内に空気がちゃんとあるか調べてもらう。


どうやら平気のようだ。フルアーマーの防具は基本的に外と空気を循環していて窒息しないようにしている、ただ空気穴を閉じることも可能なのでダンジョンに入る少し前からそうしてた。


防具からプシュっと音がして外との空気の循環が行われたのを確かめる。


ん………………?ここは宇宙空間で地球よりはるかに重力が軽い、なのに地球と変わらない空気が存在する。

空気は重力の影響を受けるけどここは地球とは同じ重力ではないはずなのに空気は地球と同じ感じだ。

つまり………………やめた、考えても無駄だなこういうのは。ダンジョンの不思議パワーでどうにかなっているんだろうきっと。



「さて、どこから行くか。完全にここは月面なんだよな」


どこまでも続く灰色の地面に地球よりも軽い重力に、周りを確認すれば地球が見える。


「マスター、まずはマーカーの設置をしましょう」


「それもそうだな」


ダンジョンの入口にGPSのような物を設置する、こういったフィールド型のダンジョンでは入口を見失い遭難する可能性があるのでダンジョン協会からGPSみたいな物が売られている。


まぁ今回使用するのはヘレナ特製の物なので信号をキャッチできるのもヘレナだけのやつだ。


「それじゃ行くか」


「はい」






◇  ◇  ◇  ◇






「事前に画像で見たから知ってたけど、実際に見るとかなり不気味だなアレ」


バイクを飛行モードにして地面から軽く浮きながら移動しつつ索敵していると【月面】ダンジョン初の敵に遭遇した。


その見た目はのっぺらぼうだ。


人型だが全身が白く軽く発光している、大きさは180センチほどの長身でその見た目とあいまってかなり不気味にみえる。


こちらに気づいているのかどうか、目などがないので視線も無くどこを向いているのかもわからない。

辛うじて移動している姿からあっちが前なんだろうなっていうのが推測できる程度だ。


取り合えずいつも通りアサルトライフルを構えて撃つ。


「どわっうぉー!」


アサルトライフルを撃った瞬間、いつもよりはるかに激しい衝撃を体に受ける。

踏ん張りがきかず大きくのけぞってしまう。


「ヘレナすまん!アレ倒しておいてくれ!」


「はい」


重力が軽いのを甘く見ていた、銃の反動が地球とは比べ物にならない。

抑え込む事は出来るが反動で体が浮きそうになるのはどうしようもない、踏ん張りもきかないしどうしたものか。


「マスター、大丈夫ですか?」


「俺は大丈夫だけど、この感じだと戦闘を行えそうにないな反動が強すぎる」


魔物を倒したヘレナが回収用ドローンに宇宙人を持たせて戻ってきた。


【月面】ダンジョン最初の魔物はGPへと換えていくらになるか見ていく。


「1体で35万か、うますぎる」


今現在のGPは1億7000万ほど、かなり余裕がある。

【格納庫】の拡張にそこそこ使ったが今はまだ〝格納庫拡張Lv:5〟で止めてある。

GP的にはLv10にすることも可能なのだが5レベルでも十分広く困っていない。


だとしてもGPはあればあるだけ嬉しいのでいっぱい稼ぎたい。



「それにしても反動が強いのは困ったな、どうしようか」


反動の少ないハンドガンを使うか?でも威力が足りなくなりそうでちょっと怖いな。


「マスター、反動をどうにかしたいのでしたら〝光線銃〟はどうでしょうか」


「あー!そういえばそれがあったな」


〝光線銃〟は試しに使ってみてすぐに使う事は無いだろうなと判断した、その理由が反動の無さだ。

反動が無さ過ぎて銃を撃っているという感覚が無くて好きになれなかったのだ。


だが、現状だとその反動の無さが生きてくる。


「買うか」


以前試したのは〝ハンドガン(光線銃)〟の一番安いやつだったから、今回買うのは〝アサルトライフル(光線銃)〟の最新版。1200万GPだ。


銃のデザインはシンプル目のやつを選んでおく。

弾であるカートリッジもいくつか買っておく。



「ふむふむ、これならいけるな」


試射をして使えるかどうかを確認する、〝アサルトライフル(光線銃)〟は反動が無く今の状態だと扱いやすい。


「よし、これで行こう」








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