第108話 【機獣都市】
108.【機獣都市】
「うわぁ世界観が凄いなここは」
やって来たのは指名依頼された【機獣都市】ダンジョン、依頼内容は【機獣都市】内にある魔物の巣の殲滅、そしてそこでとれるボスの素材【ランバル】の核をとってくる事。
ボス素材をとってくるだけなら殲滅する必要性が感じられないが、依頼内容を見たところ捕捉に『前回間引きしたのが3年ほど前なのでそろそろもう一度間引きを行うため』と書いてあった。
間引きをおこなわなくてもダンジョンから魔物があふれ出るということもないし基本放置してもいいはずだが、ダンジョン協会はダンジョンの管理も仕事なのでこういった間引きなどもするんだと思う。
まぁその間引きを探索者に依頼しているのはどうなのかとか思う人もいるかもしれないが誰かに依頼して管理するっていうのも大事なことだ。
間引きをするなら巣の殲滅では無くて魔物を見つけ次第倒していくほうがいいのではないかと思うかもしれないが。
ここは放棄ダンジョンとは違い、たまにだがちゃんと人のくるダンジョンだ、とは言っても来る人がみんな巣の攻略をするわけじゃないのでこうやって依頼を出すみたいだ。
巣に魔物が増えすぎると、巣以外の場所にも魔物が増えていってしまう。そうなると普段来る人も魔物が増えたのなら危険だしちょっと来るのやめようかなとなってしまう。
なにもAランクダンジョンはここだけじゃないのだ、管理の行き届いていないダンジョンよりきちんと管理されているダンジョンのほうが通いやすいのは仕方ない事だ。
そんなわけでやってきた【機獣都市】なのだが、ここは名前の通り都市の造りになっているのだがイメージテーマでもあるのかスチームパンクの世界に見える。
遥か昔のイギリスの景観に、所々から蒸気機関の煙がもわもわと出ている。全体的に暗めの雰囲気なのだがどこか心躍る感覚を覚える。
まるでゲームの世界に入ってしまったかのようだ。
後ろを振り返り、今入ってきた場所を確認する。とても大きな屋敷にこれまた大きな石造りの門が付いている、どうやらここがダンジョンの入り口のようだ。
「あ、飛行船」
空を見上げると遠くに仮想空間でしか見たことが無い飛行船が飛んでいる、あそこに宝箱があったりするんだろうか?気になるな。
「マスター、どうしますか?」
ヘレナに声をかけられてハッとした。
仮想空間で似たようなテーマの場所へ行ったことはあるが現実で見るとは思わず見とれていたがここはダンジョンなのだからちゃんとしないとな。
「そうだな……取り合えず偵察用のドローンとクモを出して、道が狭いから【不壊】は出せそうにないし【赤雷】シリーズを3体ほど出しておこう」
「了解」
「優先するのは巣でその他に何か気になる物もあればピックアップしておいてくれ」
「はい」
指示を出すのと同時に【格納庫】を開いてそれぞれ出撃させていく、後は待つだけだがそれも暇なので自分で軽く探索する事にする。
「待ってる間は分かりやすい建物目指して探索してみるか、ドローンの映像を出してもらえる?」
ヘレナにお願いすると空中に映像を投影してくれる。
「結構色々あるなぁ、あっちには時計塔で。こっちはガラス張りの建物か、他にも演劇場のような建物にあれはここの魔物か?」
ダンジョンの入り口から正面を北として、東の方に時計塔、西の方にガラス張りの建物、北西の方に演劇場、あとは魔物っぽい姿がちらほら見える。
どこから行って見るか、どれも気になるが……ガラス張りの建物から見に行ってみるか。あれが一番何なのか謎だ。
「ヘレナ、このガラス張りの建物を目指そう」
「了解」
行先が決まったのなら早速向かう事にする、【格納庫】からバイクを取り出しヘレナと二人乗りをする。
今回は護衛として【赤雷】シリーズもいるので地上を走る事にした。
頭防具内のディスプレイにヘレナがナビを表示させてくれたのでそれに従いバイクを走らせる。
「あのネズミも魔物なのかな?」
バイクを走らせながら時々視界の端に映るネズミを見る、その体は機械で出来ていて大き目の歯車がいくつも組み合わさっており生き物という感じがしない。
「あれも魔物ですね、ただ向こうから襲ってくることが無いので放置されているようです。それにとれる素材もほぼないようですね」
「脅威にならず、素材にもならないなら放置するか」
なんのために存在しているのか分からないネズミだが、意味のない魔物なんているのだろうか?
「あ、あのお店とか気になるな。中身はイミテーションなんだろうけれど見た目は完璧なんだよなぁ」
乗り物のスピードを少し落としながら街中に見えるお店を眺めていく、ほとんどの建物は普通の2階建ての一軒家に屋根裏分の高さがあり、お店などは他と比べてもう少し高い建物になっている。
お店にはその他にも前面がガラス張りになっており店内がよく見える。
今見ているお店は雑貨屋さんなのか小物からよくわからないおきものまで置いており雰囲気もよく時間があれば眺めて見たいなと思うほどよくできている。
因みにバイクに乗りながらこれだけよそ見が出来るのは、運転はほぼ自動だからだ。もし何かあってもヘレナもいるしでそこまで気を使って運転はしていない。
敵に関しては【気配感知】を使って警戒しているしで余裕をもってよそ見運転できる。
「お、見えてきたか」
10分ほど進むと目的地であるガラス張りの建物が見えてきた、目的の建物は全面がガラス張りで、ガラス1枚1枚が大きく建物自体もかなり大きい。
「魔物が結構いるなぁ」
側に広場とその先に川があり、広場部分に魔物が何体もたむろしている。
狼型と狐型にライオンみたいなやつまでいる。
「まずは一当て」
バイクに乗ったままアサルトライフルを構え、1発。
「倒すには数発必要か」
狙ったのは狼型の魔物、アサルトライフル1発では行動不能までは行っても倒しきる所まではいってないようだ。
追加で数発撃っておき倒しきっておく。
しかし今の攻撃でこちらに気づいた他の魔物が走り出した。
「【赤雷】シリーズを前に、俺らは上から撃とう」
バイクを飛行モードにして【赤雷】シリーズの3体を前にだして盾にする。
飛ぶと言っても敵から攻撃が届かないぎりぎりぐらいの位置だ、あまり高く飛び過ぎると空を飛んでいる魔物とかいそうだし飛びすぎも注意だ。
狼型の魔物が5体、狐型のは3体、ライオン型のはこちらを睨むだけで攻撃はしかけてこない。
【赤雷】シリーズ3体と俺とヘレナで一斉射撃を行う。
ばらまかれた弾を避ける事も出来ずこちらへと走ってきていた魔物は全て沈黙した。
近づいてきていたのは倒したので遠くでこちらを睨んでいるライオンを狙い撃つ、今度は最初から何発も撃ち倒しきる。
「ふぅ……」
ライオンが倒れて動かなくなったのを見て息を吐き構えていた銃をおろす、そのまま【格納庫】から回収用ドローンを呼び出し素材の回収を任せる。
「狼型が1体5万、狐型は3万、ライオンは12万か」
回収された素材からGPへと換えていくが、さすがAランクダンジョンというべきかGP効率がかなりいい。
全部で9体、合わせて46万GP。うまい。
魔物を回収し終わったのなら目的であるガラス張りの建物へと近づいていく、付近には他に魔物の気配は無いので恐らく近づいても大丈夫なはずだ。
一応【赤雷】シリーズを先行させてその後ろからいく。
「何だろう?博物館……?」
ガラス張りの建物はその見た目通り勿論ガラス張りなので建物内が外から見える。
そんなわけで建物の外から中を覗いてみているのだが、中には何やら石像や機械の何か芸術品?のようなものや絵画が置いてある。
ここは美術館なのか?博物館なのか?よくわからないな。
「っていうか入口が見当たらないな」
バイクで飛んでいる状態のままガラス張りの建物のまわりを見ていくが入口が見当たらない、どこからみても全部ガラスになっている。
「マスター、建物をスキャンしましたがどうやら中に宝箱があるようです。恐らくこの感じからすると入口は何かしらのギミックで開くタイプだと思います」
「ギミック系かぁ、どこかにヒントになりそうな物はあった?」
「建物の周りには無さそうです」
「そう簡単にはいかないか」
ゲームとかなら必ず近くにヒントになりそうな物があるんだけどな。
「マスター、任せて下さい」
「ん?何を任せるの?」
「来る前に調べておいたのですが、ここのギミックはネットに載ってました」
「お、おう……」
ここのギミックの攻略情報とか載ってたのか…………何て言うか……うん、まぁいいか。
「ついてきてください」
ヘレナが案内してくれるそうなのであとをついていく。
「ここです」
「ガラス張りだね」
たどり着いた場所は変わらずガラス張りの場所、そこでヘレナが立ち止まった。
「ここで合言葉を唱えます、行きます────」
「おー…………………………………………なんで寿限無?」
立ち止まったヘレナが唱えたのはかの有名な寿限無だ。
寿限無、寿限無、五劫のすりきれ──っていうアレだ。
ヘレナが寿限無を唱え終わるとガラス張りだった場所がスライドして開いていく。
「開くのか…………なんで寿限無?」
「マスター、ダンジョンに理由を求めても仕方がないですよ」
「いや、そりゃそうなんだけれど納得いかない……」
釈然としないまま開いた入口から中へと入っていく。もちろんバイクは降りて歩いて入っている。
「っていうかガラスなんだし壊せばよかったか?」
今更だがわざわざこんなギミックをクリアしなくても建物はガラス張りなんだしどこか一か所壊せば入れたかもしれないな。
「ダメですよマスター、それをすると警報が鳴ってとんでもない数の魔物が寄ってくるそうです」
「あー、流石にそんなズルはダメか」
ここは所謂トラップの一種だったという事か。
何も考えずにガラスだからと破ってしまえば警報が鳴って窮地に陥ると言う感じの。
「それで宝箱はどこにあるの?」
建物の中にある美術品の数々を眺めながら歩いていく、【気配感知】に敵の姿は無くどうやらこの建物の中は安全地帯にもなっているようだ。
「ここです」
美術品に埋もれるようにして宝箱はあった。
「宝箱もテーマに沿ってるのか」
見つけた宝箱はこれまたスチームパンクの世界に合うような感じの装飾がされている、ここは細かい所まで作りこんでいるんだな。
「罠は無しと」
【罠感知】の指輪の反応が無いのを見て罠が無い事は分かったが念のためドローンに宝箱を開けさせる。
ドローンが何事も無く宝箱を開けたのを見て中身を見ていく。
「これは……帽子か?」
シルクハットにスチームパンクの世界観の機械のゴーグルが取り付けてある。
「いらないけど持って帰るか、売ればいいしな」
使う事は無いだろうけれど折角の宝箱からでた装備だし売るために持ち帰る、【空間庫】を開き中へと入れておく。
「他にも何かありそう?」
「いえ、これだけみたいです」
「了解、それじゃぁ違うとこ行こうか」
「はい」
どうやらここは美術館みたいな安全地帯とボーナスの宝箱があるって場所みたいだな。
次はどこに行こうかな?なんか巣の破壊とかより普通に探索が楽しくなってきたかもしれない。
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